研究課題/領域番号 |
24592241
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
城戸 顕 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (70382306)
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研究分担者 |
今野 元博 近畿大学, 医学部附属病院, 准教授 (00278681)
赤羽 学 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (40326327)
田中 康仁 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (30316070)
朴木 寛弥 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (40336863)
五條 理志 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90316745)
清水 隆昌 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (70464667)
上羽 智之 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (50572963)
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キーワード | 間葉系幹細胞 / ラット担がんモデル / 末梢血液からの検出 / 幹細胞移植 / 近赤外蛍光イメージング生体観察 / コロニーアッセイ / メカニカルストレス / 臨床検体 |
研究概要 |
間葉系幹細胞は骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管神経などへの分化能を有し、心・血管など様々な領域の再生医療リソースとして期待されている。申請者の施設においては基礎研究の蓄積の後、セルプロセッシングセンターを設置して2001年より臨床研究を開始し、外傷や腫瘍の骨欠損例・変形性関節症などを対象にした培養細胞移植治療を行ってきた(Ohgushi H et al, 2005, Morishita T, Honoki K et al, 2006)。近年、消化器がんをはじめ様々ながん腫で、骨髄由来の間葉系幹細胞が間質に取り込まれ、転移前ニッチを形成しその結果がんの転移・増殖が促進される事が示された (Lazennec G, 2008, Goldstein R, 2011)。またわれわれも間葉系幹細胞投与がラット骨肉腫の増殖を促進する事を報告した(Tsukamoto S, Honoki K et al 2011)。間葉系幹細胞は全身の骨髄から動員され炎症部・傷害部に集積する。本研究はがん生体における「正常の間葉系幹細胞の振る舞い」をキーとして、その骨微小環境の動態及びがん病巣へのはたらきを明らかにし、新たな治療法の確立を目指すものである。担癌患者の体内において間葉系幹細胞は正常骨髄からがん病巣(いわゆるがんは「治らない傷」)に動員され、がん病巣の進展に有益な環境を構築する。この点に着目し、本年度まででわれわれは培養細胞、動物モデルおよびヒト臨床検体を用いた1)担がん患者の末梢血液からの間葉系幹細胞の分離 2)骨微小環境・がん微小環境の分子生物学的検索および生体蛍光観察による病勢評価手法の確立を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)間葉系幹細胞の検出。[動物実験]昨年度に引き続き培養細胞株を用いたラット担がんモデルを用いて、末梢血液からの間葉系幹細胞の検出方法を効率化した。また、実験転移病巣への間葉系幹細胞の集積を検証した。腫瘍増殖を促進する生態環境を観察する上で近赤外イメージング蛍光観察による非侵襲的生体観察が有用であることを見出し、がん微小環境の解析への応用を開始した。[ヒト臨床研究]昨年度に引き続き、担がん患者の末梢血液を用いた間葉系幹細胞検出について、本学倫理委員会の継続認可を得てこれを継続した。当初の計画通り20名の患者を登録し(うち永眠された7名についてはフォロー終了)この解析を行った。外来診察室に小型遠心器を常設し専用の単核球分離採血管に採血保存、さらに造血幹細胞との分離操作の後、コロニーアッセイにて病勢との相関を検討した。末梢血から分離された間葉系幹細胞は、原病および転移病巣の双方の病勢に相関する傾向を示しこれらは現在統計学的に解析中である。 2)骨微小環境およびがん微小環境の解析。[メカニカルストレスと骨微小環境]間葉系幹細胞の動員因子解析として、ストレックス社培養細胞伸展装置を用いたメカニカルストレス負荷培養を開始した。ヒト間葉系幹細胞、ヒト及びラット造骨性細胞株に経時的に伸展刺激を加え形態を観察するとともに細胞培地を採取、幹細胞動員因子・サイトカインの動態をELISA法及びリアルタイムPCR法を用いてて解析中である。[近赤外イメージング手法による病変部観察] がん微小環境評価のため、血管新生を病勢の一つの指標とする近赤外イメージング手法を用いた生体観察を開始した。担がんラットの観察の後、本年度は全身麻酔下にブタの関節及び軟部組織の近赤外イメージング観察を行い観察手技・システムを確立した。さらに本学倫理委員会の認可を得てヒト筋骨格病変を対象とした近赤外イメージング観察を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
1)間葉系幹細胞の検出について。これまでの成果から一定の安定した末梢血からの分離方法を(臨床の場で実行可能な手技として)確立したと考える。ただし、担癌患者においては総じてその病勢は一様でなく薬物療法の感受性の個体差、局所及び全身への進展状況もまた多様であった。本点を鑑み、われわれは検出した間葉系幹細胞のコロニーアッセイの示す臨床意義について、これまでに得た臨床データを振り返って検討し、当該患者のがん診療全体における局所(骨転移病巣)のインパクトの大きさの評価を試みる。 2)メカニカルストレスと骨微小環境の解析。さまざまな臨床的知見・基礎データから硬性支持組織である筋・骨格においてメカニカルストレスが間葉系幹細胞動員に影響を与えている可能性が高い(炎症、傷害部への集積)。引き続き培養細胞株と伸展パターンのバリエーションを増やしてメカニカルストレス下培養実験を行い、実際の臨床上における病的骨折・切迫骨折病巣の微小環境を視野に入れた網羅的サイトカイン・蛋白発現の解析を行う。 3)近赤外イメージング蛍光観察による微小環境観察。我々は初年度に血管新生が病勢を反映すると考えられる整形外科疾患(がん、リウマチ、骨軟部感染症の罹患患者および複合組織移植患者)を対象として術中近赤外イメージング蛍光観察について本学倫理委員会の認可を得、(小動物、大動物での検証を経て)本年度よりヒト病巣の観察を開始した。引き続き非腫瘍患者も陰性対象として含めた局所病巣の生体蛍光観察を継続する。これは間葉系幹細胞動員の動態解析に重要な手法となることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養用実験試薬および骨微小環境メカニカルストレス装置、試薬、消耗品(ストレスチャンバー)について、学内他講座からの無償借り入れおよび譲り受けなどの調達方法の工夫によって大幅に経費の使用が節約できました。また赤外蛍光イメージングシステムに関しても、天体用器材(近赤外線領域の星雲撮像用)・工業用器材の転用により、当初の見込みより安価に高性能の実験系を整備することが出来ました。 本次年度使用額は補助事業を誠実に遂行した結果生じたものであり、平成26年度に使用することによって、より研究が進展することが見込まれます。これは、引き続き実験試薬、消耗品、測定器材の拡充および情報収集および学術発表の為の旅費に使用する予定です。
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