研究概要 |
変形性膝関節症(膝OA)における骨棘は、関節軟骨の変性と摩耗に伴う反応性病変として考えられ、その病態や臨床的意義について関心が低かったが、近年の疫学研究の成果より、臨床症状との関連が明らかとなってきた(Muraki他, Arthritis Rheum, 2011; Kinds他, J Rheumatol, 2013)。しかし、その病態機序の大部分が不明であり、制御は不可能である。 膝OAにおける骨棘は、関節軟骨辺縁近傍の滑膜に存在する間葉系幹細胞(MSCs)が軟骨そして骨へと分化し発生する。本研究では、関節内で滑膜にも軟骨にも発現する細胞外マトリックスの一つであるパールカンに着目し、その生物学的機能を明らかにしたのち、膝OAという疾患における機序も検討し、その制御を試みる。 マウス成長軟骨の発達後期では、軟骨の肥大化ののち血管侵入がおき、軟骨が骨へと置換される。本年度は、この血管侵入の過程において既知の重要な因子であるVEGFのみでは不十分であり、パールカンが重要な役割を担うことを示した(Ishijima, Futami, Kaneko, Arikawa-Hirasawa他, Matrix Biol, 2012)。また、骨棘形成の機序解明にはマウスを用いた実験が必須であるが、従来マウス膝関節の滑膜から細胞を採取し培養する方法が確立されていなかった。我々は、マウス膝関節の滑膜から増殖能と多分化能を備えた間葉系細胞(mSMCs)を分離及び培養するための条件を設定した(Futami, Ishijima, Kaneko, Arikawa-Hirasawa他, PLos One, 2012)。 これらを基に、平成25年度では滑膜パールカン欠損マウスを用いたin vivoの実験を行うことで、滑膜に発現するパールカンが膝OAの骨棘形成に重要な機能を有することを明らかとすることを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変形性膝関節症(膝OA)についての研究のなかでも、骨棘に着目した研究は少ない。パールカンは,胎生期の軟骨形成に必須であることが、遺伝子欠損マウスの解析から明らかとなり、続いてヒトでもこれが欠損した場合、重度の軟骨形成不全により胎生致死となることから、現実に疾患に深く関わることが明らかとなっていた。しかし、その機能の重要性と多機能性が故に、詳細な機能解析が進まなかった。 本研究は、膝OAというcommon diseaseにおけるパールカンの機能解析が目的であるが、平成24年度では、まず今まで依然不明であった軟骨形成後期の軟骨が骨に置換される過程で重要な事象である血管侵入において、この過程に必須の役割を担う因子の一つであるVGEFが機能するためにパールカンが必要であることを示した(Ishijima, Futami, Kaneko, Arikawa-Hirasawa他, Matrix Biol, 2012)。 また、膝OAの骨棘形成における滑膜のパールカンの機能を明らかにするためには、細胞レベルにおいて滑膜細胞を用いた実験が必要であるが、正常なマウス膝関節の滑膜を採取・培養し実験に用いる系が存在しなかった。そのため、本年度において、正常マウスの膝関節から滑膜を採取・培養し、この細胞が既知の如く増殖能が豊富で、さらに軟骨や骨、そして脂肪へと分化する多分化能を備えることを示した(Futami, Ishijima, Kaneko, Arikawa-Hirasawa他, PLos One, 2012)。 本年度の成果は以上であり、当初の予定の滑膜パールカン欠損マウスを用いた骨棘形成実験について論文にまで仕上げることはできなかった。しかし、実験は順調に進んであり、また仮説を裏付ける成果も得られつつあることから、おおむね順調に進んでいると判断している。
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