研究概要 |
関節リウマチ(RA)の病態のメカニズムは未だ解明されていないが、生物学的製剤治療により変化した滑膜組織を調べると明らかに抗サイトカイン療法の効果が表れていることを認めた。しかしながら、現在組織学的な評価法は特に免疫染色において確立されておらず、まずこの評価法の確立を目指した。Visual Analogue Scale (VAS)を用いてgradingを0-5まで6段階に行い、例えばTNF-α抗体にて染色した滑膜組織を3名の検者にて24スライドのVASをつけると、Inter observer: κ=0.88542(z=6.04346, P<0.001, 95%CI 0.49-0.93)、Intra observer: κ=0.89916(z=6.93457, P<0.001, 95%CI 0.65-1.0) であった。この方法をImmunohistological Score (IH score: grade 0-5)と称した。このIH scoreを用いて生物学的製剤治療中における滑膜組織のサイトカイン発現パターンを調べる。Chemokineの1種であるStoromal cell drived factior 1はchemokineの1種でそのレセプターはG-coupled protein receptorに属する。CXCR4,CXCR5と並んでHIV co-receptorとして重要であり、エイズウイルスのT-cellへの感染に関与するレセプターである。我々はCXCR4が関節軟骨培養細胞に発現していることを発見し、そのligandであるSDF-1が関節滑膜培養細胞に発現していることを認めた。最近CXCR4の発現も滑膜組織に見られることを発見し、生物学的製剤によるSDF-1レセプターの発現強度をIH scoreを中心に疾患活動性、CRP、MMP-3、血清TNF-α、IL-6、CD20、CD68との関係を調べて現在研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関節リウマチに対して使用した生物学的製剤1212例のうち、infliximabを用いた401例中滑膜組織16例(抗TNF-α群)、平均年齢62.7歳、平均罹患期間8.75年、平均MTX使用量6.25mg/week, 平均ステロイド使用量2.34mg/day, 平均Disease acrtivity score (DAS28) 4.64、平均Larsen grade 3.0、平均ARASHI score 4.31、平均Infliximab使用期間1.66年の滑膜組織を調べた。滑膜の採取部位は原則として膝:ACL付着部、股関節: 円靭帯付着部、足関節:腓骨内側、肘関節:上腕骨滑車切痕周囲、肩関節:腱板疎部、手関節:遠位橈尺関節付近、指関節:関節包橈側、脊椎:椎間関節としている。H.E.染色及び免疫染色を用いて、TNF-α,IL-6,MMP-3, CD4, CD8, CD20,CD68, RANKL, BrdU, stromal derived factor 1(SDF-1)、CXCR4の発現をIH scoreらの方法に従い解析した。その結果、滑膜のTNF-αはDAS28(CRP)およびCRPに有意に関係していた。しかし滑膜のIL-6は相関を認めなかった。この中で、滑膜のTNF-αとIL-6は有意に逆相関を認めた。SDF-1レセプターであるCXCR4はDAS28(CRP)およびCRPに相関し、TNF-αを含めたサイトカイン発現との関係を現在研究中でありin vitroの培養実験へと進めている。平成24年度の研究到達度はin vitro実験で滑膜組織培養が進行中であり、抗TNF-α療法におけるSDF-1レセプター、CXCR4の発現抑制が骨関節破壊にいかに関与しているかを含め次年度の計画と進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
研究遂行にあたりSDF-1の発現よりもSDF-1レセプター、CXCR4の発現が生物学的製剤治療中の滑膜組織において疾患活動性や他のサイトカインと相関してきたため、in vitroの実験をCXCR4の細胞内シグナル伝達解明へと進めている。RA(SFRA)とOA(SFOA)の滑膜細胞を初代培養する。SFRA細胞のSDF-1、CXCR4発現をmRNAおよびWestern blotting法にて解析しRAにてCXCR4の増加を調べる。TNF-α,IL-6産生についてELISAを用いて調べ、CXCR4および抗CXCR4抗体にて抑制実験を行う。SDF-1/CXCR4を介する細胞内シグナル伝達系を解明するためSDF-1添加SFRAおよびSFOA細胞におけるprotein kinase A, C, tyrosine kinase inhibitorを用いてサイトカインの抑制実験を行う。さらにRA滑膜組織が骨関節に付着してpunnusを形成し骨関節破壊を起こしている組織より、多核組織球にCXCR4の発現を免疫組織学的に調べる。
|