昨年度の睡眠時の脳活動変化の実験結果から,睡眠のステージが上がるにつれて1)α波が後頭部の深部(楔前部を中心としたエリア)でα波減少すること,続いて前頭部深部でα波が増強すること,3)前頭部深部でのδ波が増強することなどが明らかとなったため,このような脳活動の変化が麻酔時にも共通していることを確認しようと研究を計画したが,大学病院以外の施設での全身麻酔が必要となり,安全面での懸念から倫理委員会の承認を得られなかった.記憶に関する研究に関しては,視覚刺激,聴覚刺激による記憶形成時,想記時の脳活動観察の予備実験をおこなった.視覚刺激としては画像の記憶,聴覚刺激としては日本語の単語記憶を用いた.海馬ならびに各感覚野での活動増強を予想していたが,タスクの強度が不足していたからか,fMRI,脳磁図ともに有意な活動を観測できなかった.記憶は海馬が他の部位とそこで,最終年度である今年度は,意識,記憶同様に麻酔の主要なターゲットである痛みによる脳活動変化を脳磁図で観察する実験をおこなった.痛みを客観的に評価することは麻酔科のみならずすべての診療科で望まれている.被検者に障害が残らないように氷による寒冷刺激を痛み刺激として用い,fMRIおよび脳磁図で脳活動の変化を観測した.fMRIでは痛みによる頭頂連合野,視床,島皮質などの活動増加が観察され,脳磁図では体性感覚野,島皮質での高周波域のパワー減少,海馬,扁桃体での広帯域でのパワー増加が観察された.
|