研究課題
種々の動物実験を経て、1990年代の初めに、NO吸入療法は臨床導入され、肺高血圧の管理や悪化した肺での酸素化能改善のために利用されてきた。使用開始初期には、NOの代謝やヘモグロビンへの結合の速さから、臨床使用濃度(~80ppm)では、局所から血管内に吸収されると瞬時に分解され、その影響は肺循環に限られると考えられた。血栓形成抑制や白血球凝集抑制作用等の全身作用を有することは知られていたが、明解な臨床的役割や意義は示されていなかった。その作用が遠隔臓器でも保護作用としてみられることが知られるようになり、その治療適応の虚血・再灌流障害に対する拡大の可能性が考えられてきた。最近の報告では、心筋虚血を初めとして、各種血管床での保護効果が示されているが、周術期の中枢神経系の保護作用に関しては、報告がほとんど無い。好気的環境では、すぐに分解されて、NOxとして活性を失うが、嫌気的な環境下(静脈血中や虚血組織)では再度NOの形にもどり、その生物的活性を示すことから、NO吸入療法を周術期の中枢神経保護法(虚血が生じなければ作用を示さず、虚血になった組織でのみ生物学的活性を示す)としての有用性を証明し、臨床応用のためのtherapeutic windowを確立するため、脊髄虚血モデル動物を用いて、運動機能の評価、組織学的評価、あるいは血流・組織酸素分圧等を指標に、昨年検討して得られたNO吸入の必要濃度の検討(80ppm)を虚血作成前から吸入させ、上記パラメータを検討した。
2: おおむね順調に進展している
ファイバーオプティクス酸素センサーおよび血流センサーによる解析をウサギの脊髄虚血モデルにおいて、腰髄に組織マイクロプローベを用い,laser Doppler flowmetryを用いて脊髄血流量(rSCBF)および脊髄組織酸素分圧(PspO2)を脊髄虚血後再灌流60分後まで持続的に測定し,臓器保護効果とrSCBFおよびPspO2の相関を検討した。脊髄虚血に伴って、rSCBFおよびPspO2共に低下するが、コントール群に比較して、80ppmのNO吸入群ではその下が減弱することが示唆された。再灌流後は、その変化に2群間に有意な差は認められなかった。このことは、脊髄虚血が生じた際には、虚血改善する方向でNOは作用するが、好気的環境(組織的に虚血が認められない)では、その作用が現れないという当初の想定通りの結果が得られ、その成果を2013年度アメリカ麻酔科学会(サンフランシスコ)で発表し、専門家の意見を伺った。
中大脳動脈領域の血流を塞栓糸として先端をコーティングした4-0ナイロン糸を内頸動脈に向けて挿入することによって傷害し、その際の脳保護作用の実験に移行する予定である。レーザードップラーの数値が30 %以下となった時に中大脳動脈閉塞と判断し、塞栓糸を2 時間後に引き抜き、再灌流することによって虚血・再灌流モデルを作成し上記目的の実験を行う。梗塞領域を比較するため、再灌流22 時間後に脳を摘出し梗塞領域を2,3,5- triphenyltetrazolium chloride (TTC)染色にて評価する。カテーテル留置後、酸素化空気(コントロール)あるいはNO混合ガス(酸素化空気にNOガスを添加し、80ppmの濃度になるように調整)を虚血作成前から抜管まで(60分間)吸入させ、上記モデルで脳保護作用を検討する。
実験モデルによる研究を継続する必要がある。実験費用の多くは、実験動物・使用薬物・NOガス等の吸入ガス等・組織表作成費用に充てる。また、研究打ち合わせ・研究成果の発表および論文投稿の準備費用(英語校閲費用等)に充てる。
すべて 2013
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