平成26年度は麻酔状態下における細胞膜マイクロドメイン・非マイクロドメイン成分の動態解析を行った。具体的には、遺伝子導入技術を用いて細胞膜上に蛍光標識タンパク質を発現させ、共焦点顕微鏡でFRAP解析を行った。 まず、マイクロドメイン・非マイクロドメイン分画それぞれに特異的に発現しているタンパク質に、蛍光タグを結合させた遺伝子を設計し、その遺伝子をリポフェクション法で細胞内へ導入した。マイクロドメインの蛍光標識にはGPIアンカー+Halotag、非マイクロドメインの蛍光標識にはトランスフェリン受容体+Halotagを用いた。更に、両者共通の標識としてPDGF受容体+Halotagも用いた。遺伝子を導入した細胞は、HEK293t、Hela細胞、ラット胎仔大脳皮質初代培養神経細胞である。麻酔薬は揮発性麻酔薬イソフルランを用いた。遺伝子を細胞に導入した後で培養液に溶解したイソフルランに暴露し、共焦点顕微鏡でFRAP解析を行った。 FRAP解析では蛍光標識した粒子群の平均拡散速度を知ることができる。今回の実験結果から、麻酔をかけたときのマイクロドメインと非マイクロドメインの動態変化に差があることが分かった。臨床濃度の麻酔薬に暴露することによって、マイクロドメインは拡散速度に変化は無く、非マイクロドメインでは拡散速度が増えた。マイクロドメイン・非マイクロドメインの違いは、その分画に含まれるコレステロールやスフィンゴ脂質の濃度の違いである。つまり、揮発性麻酔薬は膜に対して均一に作用するのではなく、構成する脂質成分の違いによって作用が異なることが証明された。揮発性麻酔薬が細胞膜の流動性を高めることは既に報告されているが、膜の流動性増加は非マイクロドメイン分画の動態変化を主に反映していることが示唆された。
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