研究課題/領域番号 |
24592304
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
徳丸 治 大分大学, 医学部, 准教授 (40360151)
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研究分担者 |
北野 敬明 大分大学, 医学部, 教授 (20211196)
横井 功 大分大学, 医学部, 教授 (80150366)
古賀 寛教 大分大学, 医学部, 助教 (50468013)
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キーワード | 脳保護作用 / カルニチン / 核磁気共鳴法 / 虚血再灌流傷害 / 電子スピン共鳴法 / 高エネルギーリン酸 / フリーラジカル / スピントラップ |
研究概要 |
1.リンを観測核とする核磁気共鳴法による脳エネルギー代謝の測定 ラットの大脳スライスを作成し,酸素化した10 mMブドウ糖加人工脳脊髄液(ACSF)で灌流し,リンを観測核とする核磁気共鳴法(31P-NMR)により高エネルギーリン酸のスペクトルを測定した。この実験系を用いて,虚血-再灌流傷害に対するアセチルカルニチン(ALCAR)の脳保護作用を検討した。フルオロクエン酸を灌流液に添加してニューロンリッチなスライスを作成し,虚血-再灌流傷害からのクレアチンリン酸の回復を測定した。平成24年度の研究で認められた正常スライスの虚血-再灌流傷害に対する保護作用とは異なり(至適濃度0.1 mMのベル型の濃度反応曲線),ニューロンリッチスライスでは,虚血-再灌流傷害に対するALCARの脳保護作用が認められなかった。このことより,ALCARの脳保護作用は,アストロサイトに依存することが示唆された。 2.電子スピン共鳴法によるALCARのラジカル消去能の測定 ALCARによるフリーラジカルの消去能を,DMPO及びCYPMPOをスピントラップ剤として用いた電子スピン共鳴法(ESR)により測定した。ALCARは,DPPHラジカルやビタミンCラジカルに対してラジカル消去能を示した。しかし,高濃度(mMオーダー)のALCARはヒドロキシルラジカルやスーパーオキサイドアニオンを増加させ,むしろプロオキシダントとしての活性がみられた。 3.これらより,ALCARの脳保護作用の機序の一つとして,そのラジカル消去能が示唆された。しかし,高濃度ではプロオキシダントとして作用することから,虚血-再灌流傷害に対する濃度反応曲線がベル型になると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) 当初の計画通り,31P-NMRを用いて,正常脳組織スライスおよびニューロンリッチな脳組織スライスの虚血-再灌流傷害に対するALCARの脳保護効果の評価を行った。 (2) しかし,ESRによるフリーラジカル消去能の評価において,ALCARはラジカル消去能をもつ抗酸化剤として作用するだけでなく,プロオキシダントとしての作用も持つことが判明した。このため,想定していた以上に詳細なラジカル消去能/抗酸化能の検討が必要となり,当初の予定よりも実験の進行が遅延している。 (3) また当初の計画に挙げていた組織中に発生したフリーラジカルの測定およびLC/MSによるメタボローム解析については,未実施である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 31P-NMRによる脳エネルギー代謝の実験は, ALCARの脳保護作用におけるニューロンとグリア細胞の役割を明らかにして,概ね当初の計画通り終了した。 (2) しかし,ESRによるALCARのラジカル消去能については,プロオキシダントとしての作用が明らかになり,当初の予定以上に詳細な検討が必要となった。最終年度においては,検討対象とするフリーラジカルの種類やスピントラップ剤の種類をさらに増やして引き続き評価を実施する。その際,ラジカルの発生系と捕捉系の最適な組み合わせを探るなど,さまざまな工夫が必要であることが予想される。 (3) また本年度までに未実施の課題として,組織内に発生したフリーラジカルをスピントラップ剤によって捕捉,安定化して,ESRによる定量を試みる。また, LC/MSによるメタボローム解析を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が研究分担者として参加する他の研究課題が,本年度に最終年度を迎えた。そちらに当初の見込みよりも多くのエフォートを費やしたため,本研究の進行が予定よりも遅れてしまった。 また,本研究で使用する実験機器(NMR及びESR)は大分大学の共同利用の装置であるが,その利用に掛かる経費が次年度より上がることが予想された。そのため,その負担増に備えて本年度の支出を控えざるを得なかった。 これらの理由により,研究費の次年度使用額が生じたものである。 次年度に繰り越した1,207,428円円のうち,約80万円は当初の計画では本年度に購入すべきであった消耗品などの物品費に充てる。残り約40万円は,実験機器の利用に伴う負担増(機器使用料)に充てる予定である。
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