昨年度までと同様に、酸素電極を用いた呼吸能の測定によりミトコンドリア機能を評価した。 <腎保護作用に関する研究> 血管内手術が広く実施されるようになり、周術期に造影剤を多用する機会が増えている。それに伴い、造影剤による腎障害(造影剤腎症)が問題になっている。いくつかの小規模研究で周術期使用薬であるニコランジルの造影剤腎症軽減作用が報告されている。昨年度までの研究において、この周術期使用薬による造影剤腎症の軽減作用のメカニズム解明のため、ミトコンドリア機能に焦点を当て研究をおこなったが、作用機序を解明につながる結果は得られなかった。今年度は保護効果を示す可能性を持つ対象薬を、ニコランジルから虚血時の腎ミトコンドリア機能保護作用を有する麻酔薬に変更して研究を行った。造影剤によるミトコンドリア機能低下に対する吸入麻酔薬による保護作用は確認できなかった。 <肝保護効果に関する研究> 昨年度までの研究で、低酸素によるミトコンドリア機能低下を吸入麻酔薬が軽減させる傾向が認められている。今年度はこの実験数を積み重ねた。さらに、肝臓ミトコンドリアを抽出し吸入麻酔薬を適応後、ピルビン酸・リンゴ酸もしくはにロテノンと共にコハク酸を用いて電子伝達系を賦活化した際のミトコンドリア機能を評価した。心臓・腎臓と同様に、ピルビン酸・コハク酸を用いたときのみ吸入麻酔薬投与によってミトコンドリア機能が低下したことより、肝臓においても吸入麻酔薬はミトコンドリア電子伝達系複合体Iに作用して、低酸素によるミトコンドリア機能低下に対する保護効果を示すことが推測された。
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