研究実績の概要 |
最近の研究において、脳内のニコチン性アセチルコリン受容体への作用が麻酔効果に影響を与えることが示唆されている。本研究は、「筋弛緩薬を脳室内投与すると、吸入麻酔薬の麻酔深度が増強する」という仮説を検証し、効果が見られる投与量が臨床上どれだけ有意であるかを検討することで、「筋弛緩薬は、中枢神経への直接作用により吸入麻酔薬の鎮静・鎮痛作用に影響を与える」ことを解明するために行われた。 実験7日前に脳室内ガイドカニューラを挿入されたラットを、イソフルラン持続注入プラスチックシリンダーに入れ、速やかに入眠し、かつ、テールクランプにて体動を認める濃度である1.1%にて維持した。40分間の安定化の後、テールクランプによる体動を確認し、さらに20分間安定化させた後で、パンクロニウム溶液(0, 1, 2, 6, 10 µg/kgのいずれか)を脳室内に投与した。その15, 35, 60, 90, 120, 150分後にテールクランプを行い、体動の有無を評価した。別の群にて、パンクロニウム静脈内投与における神経筋遮断のED95を測定し、脳室内投与の用量との比較を行った。 静脈内投与における神経筋遮断のED95は、131 (90%CI; 108-154) µg/kgであった。脳室内に投与されたパンクロニウムの量がその5% (6 µg/kg) であっても、テールクランプによって体動を示さない個体が有意に増加した。 今回の結果は、筋弛緩薬を中枢神経へ直接投与することにより、吸入麻酔薬の麻酔作用が増強されることを示している。効果を示す脳室内投与の用量が静脈内投与と比較し、極めて少量であるため、術中に静脈内投与された筋弛緩薬が吸入麻酔の麻酔深度に影響を与えるだけでなく、術後の覚醒遅延や合併症発生に筋弛緩薬の中枢神経への影響が関与している可能性も考えられ、臨床麻酔においても有益な知見が得られたと考える。
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