研究課題/領域番号 |
24592321
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
川崎 知佳 産業医科大学, 医学部, 非常勤医師 (60258621)
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研究分担者 |
川崎 貴士 産業医科大学, 医学部, 准教授 (60299633)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 熱射病 / 中枢神経障害 / 炎症性メディエーター / ミクログリア |
研究概要 |
近年、異常高温環境が人体に影響を及ぼすことが社会問題になっている。熱射病は現在でも非常に高い死亡率を示しているが、病態生理はいまだ不明な点が多い。本研究の目的は、1.異常高体温時に発生する中枢神経系の障害を評価する。2.中枢神経系の障害における炎症活性の関与を確認する。3.炎症活性制御による熱射病の治療戦略を開発する。以上について検討し、熱射病発生における中枢神経障害(視床下部ミクログリア活性化)の関与について解明し、それを制御する戦略を開発、熱射病の発生、死亡率の低下を図ることである。 C3H/HeN(male, 8-10 weeks old、weighing 20-25g)マウスを人工気象室で暑熱環境下、熱曝露を4時間行い、熱射病モデルを作成した。熱曝露後は室温環境(25℃)に戻した。熱曝露後、イソフルラン麻酔下に血液、臓器採取(脳:視床下部)を行った。血液はEDTA添加シリンジに心臓穿刺で採取後、遠心を行い血清分離し測定まで-80℃で保存した。平成24年度は炎症メディエーターであるHMGB1, IL-1beta, IL-6, TNF-alphaの中枢神経内濃度をELISAで測定した。熱曝露2時間で中枢神経内のHMGB1, IL-6濃度は上昇していた。血中の炎症メディエーター濃度も著明に上昇した。次にmicroglia inhibitorであるminocyclineでマウスを処置(腹腔内投与)した場合の炎症メディエーター濃度の変化を評価し、microgliaの活性化と炎症メディエーター濃度上昇の関連を検討した。minocycline処理マウスの血中炎症性メディエーター濃度は非処理マウスと比べ有意差はなかったが、中枢神経内濃度は有意に抑制された。ミクログリア活性化が熱射病による中枢神経炎症性メディエーター濃度増加に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱射病による中枢神経障害発生の機序として炎症性メディエーター(HMGB1,炎症性サイトカイン)を介した機序が今までの研究で明らかにされた。われわれの今までの研究から、熱暴露による死亡率は暴露時間が一定の時間を超えると急激に上昇することが明らかになっており、この死亡率の上昇は臓器障害だけでは説明できず、中枢神経系の障害が関与している可能性が示唆される。マウスモデルにおいても臨床でみられるような異常高体温の持続が認められ、体温調節の破錠が考えられる。本研究は、中枢神経系、特に体温調節中枢であり体浸透圧調節に重要なvasopressinを産生する細胞が集まっている視床下部に焦点を当て、免疫細胞であるmicroglia活性の面から熱射病発生機序への関与を検討することを目的としている。平成24年度研究で中枢神経microglia活性化が熱射病発生機序へ関与している可能性も明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
熱暴露により発生する中枢神経(視床下部)障害の評価を行い、中枢神経障害とミクログリア活性化、炎症メディエーター、vasopressinとの関連解析を行う。さらにリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)による中枢神経障害、致死率制御の評価、rTMによる中枢神経ミクログリア活性化、炎症メディエーターとvasopressin発現制御について検討する。rTM投与タイミングの検討、他の治療候補薬の検討も行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度購入予定であった抗体を次年度購入するため繰越額が生じた。 研究1:熱暴露により発生する中枢神経(視床下部)障害の評価。中枢神経障害を評価するため、脳虚血・低酸素マーカーであるglutamate, lactate-to-pyruvate ratio, nitrite, dihydroxybenzoic acidの視床下部内濃度を測定する。また神経障害マーカーであるglycerol濃度を測定する。さらにホルマリン固定した脳標本において、神経障害の程度をPulsinelliらの方法を用いてスコアリングする。 研究2:熱暴露による中枢神経(視床下部)のミクログリア活性化、炎症メディエーターとvasopressin発現の解析。中枢神経内でのmicroglia活性化を調べるため、ホルマリン固定した脳標本でmicrogliaマーカーであるCD11b, F4/80抗体を用いて免疫染色を行い、熱暴露後のmicrogliaの局在変化、発現変化を確認する。また、炎症メディエーターであるHMGB1, IL-1beta, IL-6, TNF-alphaの中枢神経内濃度をELISAで測定する。さらにvasopressin濃度変化検討も行う。次にmicroglia inhibitorであるminocycline、resveratolでマウスを処置(腹腔内投与)した場合の炎症メディエーター濃度の変化を評価し、microgliaの活性化と炎症メディエーター濃度上昇の関連を確認する。 研究3:中枢神経障害とミクログリア活性化、炎症メディエーター、vasopressin発現との関連解析。ミクログリア活性化、炎症メディエーター、vasopressin濃度と中枢神経障害の程度を比較検討し、ミクログリア活性化、炎症メディエーター、vasopressinが中枢神経障害に関与していることを確認する。
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