研究概要 |
背景:痛みやストレスなどの有害事象は負情動を形成し、内分泌・自律機能変化や気分変調などの情動応答を引き起こす。扁桃体中心核は負の情動の形成に重要な役割を果たしている。扁桃体中心核(CeA)外包亜核・外側亜核に入った情報は出力核であるCeA内側亜核から中脳水道周囲灰白質や迷走神経背側複合体などに伝えられ、すくみ行動や自律機能変化などの情動関連応答を誘発する。 目的:ストレスホルモンのひとつであるノルアドレナリン(NA)は急性痛・慢性痛下に脳内で放出が亢進する。NAのCeAに与える影響について調べた。 方法:4-8週齢C57BL/6Jマウスの急性脳スライス標本を作製し、内側亜核細胞からホールセルパッチクランプ法で膜電流を記録した。CeAはそのほとんどがGABA作動性ニューロンであることから、薬理学的にGABAA受容体を介する自発性抑制性シナプス後電流を単離記録し、NAを灌流投与しその振幅と頻度の変化を解析した。 結果:NA (50 nM) は、CeA内側核ニューロンの自発性抑制性シナプス後電流の振幅 (118%±63%, n=12, P<0.05)と頻度(143%±70%, n=12, P<0.05)を有意に増加した。この作用はβアドレナリン受容体遮断薬のプロプラノロール40 μMの前投与により消失し、ナトリウムチャネル遮断薬テトロドトキシン1μM存在下には観察されなかった。 考察:NAがβ受容体を介して内側亜核の抑制性神経伝達を増強させることが明らかになった。また、この作用がテトロドトキシンによってブロックされたことから、内側亜核に入力する外包亜核や外側亜核のニューロンがβ受容体を介して活性化されたことによることが示唆された。内側亜核出力ニューロンのほとんどが抑制性ニューロンであることから、抑制性ニューロンが抑制されることにより、情動反応が増強される可能性が示唆される。
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