他施設における研究により、脊髄におけるグリシン・GABA(A)受容体を介する抑制を薬物によりブロックする(脱抑制)と、触っただけで痛みを感じる現象、すなわちアロディニアが引き起こされることが示された。さらに、脊髄後角Ⅰ層に存在する投射ニューロンは痛みの入力のみを受けているが、脱抑制が起きると複数のニューロンを介した触刺激の情報も同時に受けるようになることが報告された。この報告は、通常はグリシンとGABAによってブロックされている経路が、脱抑制によって顕在化することを示唆した。また、グリシン受容体のサブユニットの一つであるα3が疼痛伝達関連部位の脊髄後角浅層に特異的に発現していることが報告された。これらの背景をふまえ、本研究では疼痛の伝達経路である脊髄においてグリシン受容体がどのような働きをしているのかを、行動実験によって明らかにした。グリシン受容体α3サブユニットの発現を抑制するため、siRNAをラットの脊髄腔内に投与したが、熱刺激に対する反応はsiRNAの投与前後で変化しなかった。この結果より、グリシン受容体のサブユニットのひとつであるα3サブユニットは、疼痛伝達において平常時はそれほど大きな役割を果たしていないことが示唆された。今後は、この成果を基にして、炎症性疼痛モデル動物においてグリシン受容体のα3サブユニットがどのような役割を果たしているかを明らかにすことができると期待される。
|