研究背景として、手術中の鎮痛薬として頻用されるμオピオイド受容体刺激薬レミフェンタニルは、持続投与によって効果が減弱するという報告と否定する報告があり、真偽は不明である。本研究の目的は、レミフェンタニルによる急性耐性および痛覚過敏の発生の有無を明らかにすることである。研究成果は周術期の鎮痛管理の向上に寄与するものであり、社会的意義は大きい。研究方法として、週齢8~14週の雄性マウスを用いて行動学的実験をおこなった。研究成果として、レミフェンタニルを腹腔内持続投与するために、plantar testを施行したところ吸入麻酔薬セボフルランは1.5%atmが鎮痛効果に影響なく鎮静できる濃度であることが明らかになった。最終年度における研究成果として、まず、最大投与量を決定した。高用量レミフェンタニルを腹腔内投与したところ、100 mg/kgでアキネジアを認めた。したがって、これ以上の投与は麻薬性呼吸抑制や鉛管現象などを誘発するため、この量を限界値とした。次に、高用量レミフェンタニルの持続投与による急性耐性および痛覚過敏の発生の有無を調べた。レミフェンタニル240 mg/kg/hを30分間、 180 mg/kg/hを30分間、120 mg/kg/hを2時間にわたり持続投与した。cut-off値は10秒と設定し熱傷予防に努めた。Plantar testによる熱刺激を後脚に加えたところ、レミフェンタニル持続投与中の逃避行動の潜時は10秒のまま短縮せず、急性耐性を認めなかった。さらに、レミフェンタニル投与前のコントロール値と比較して、持続投与終了後に潜時は短縮せず、痛覚過敏を認めなかった。本研究において、高用量レミフェンタニルを手術侵襲のないラットに持続投与しても急性耐性および痛覚過敏は発生しなかった。臨床において、効果の減弱を憂慮することなく侵襲に応じた至適投与が可能であると思われる。
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