副腎皮質ステロイドは術後痛や慢性疼痛に対し鎮痛効果をもつが、この主な機序は抗炎症作用と考えられてきた。この作用は核内の遺伝子転写を誘導するゲノム作用であるが、近年それより迅速な細胞膜上の受容体やイオンチャネルに直接作用する非ゲノム作用も注目されている。しかし、この作用が鎮痛効果にどのように関与しているかはまだよく分かっていない。本研究ではラットの脊髄を用いた電気生理学的実験により、副腎皮質ステロイドの痛覚伝達に対する非ゲノム作用を明らかにすることを試みた。 脊髄スライス標本を用いたin vitro パッチクランプ法では一つの生きた脊髄後角ニューロンから電気活動を記録し、痛覚伝達における詳細なメカニズムを調べることができる。まず、正常ラットにおいて、副腎皮質ステロイドが脊髄後角における痛覚伝達に対しどのような影響を及ぼすか、下記の点について解析した。1 副腎皮質ステロイドの興奮性および抑制性シナプス電流に対する作用、脊髄後角細胞に対する直接作用、伝達物質投与で誘起される電流に対する作用、 2 その作用が非ゲノム反応であるか、3 その作用が細胞膜に存在するmGRを介するものかどうか、 4 その作用はどのような細胞内情報伝達系を介するか。今回用いた副腎皮質ステロイドはデキサメタゾン、ベタメタゾン、ヒドロコルチゾンである。それぞれ臨床で使用可能な濃度にて実験をしたが至適環境を得るには至らなかった。
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