研究実績の概要 |
吸入麻酔薬の心保護効果の検討が、分子レベルや臨床レベルで行われているが、そのメカニズムは単一ではなく、様々な方面からのアプローチを必要とする。我々は、以前より細胞傷害の重要な要因としてCa2+動態に着目し検証してきた。その中で心筋虚血再灌流時に生じる生理現象を模したCa2+パラドックスがTRPC(Transient receptor potential canonical)チャネルを介して細胞死を誘発すること、そのチャネルを吸入麻酔薬が抑制することを分子レベルで解析し、報告してきた。この制御機構がin vivoレベルで有効であるかを検証することが本研究の目的である。初めにTRPC感受性を増大させたラットを実験に供する目的でTAC(transverse aortic constriction)手術を行い、圧負荷による心不全ラットを作成した。そのラットに心臓マイクロダイアリシス法を適用して30分間の冠動脈閉塞と開放後60分間の心筋透析液を15分ごとに採取して心筋逸脱タンパク質濃度を測定し、虚血再灌流時の細胞傷害の指標とした。その結果、冠動脈閉塞中および開放後において透析液逸脱タンパク質濃度の上昇が認められ、特に開放直後には閉塞中に比して急峻な上昇が観察された。こうした上昇はTRPCチャネルブロッカー(2-APB, SKF-96365)を投与することで抑制された。また、吸入麻酔薬(セボフルラン)を暴露することでもTRPCチャネルブロッカー投与時と同様に透析液逸脱タンパク質濃度応答が抑制された。
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