研究課題/領域番号 |
24592340
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
河野 崇 高知大学, 教育研究部医療学系, 講師 (40380076)
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研究分担者 |
横山 正尚 高知大学, 医歯学系, 教授 (20158380)
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キーワード | インスリン / グルカゴン様ペプチド-1 / イソフルラン / プロポフォール / デクスメデトミジン |
研究概要 |
本年度は, 各種麻酔薬 (イソフルラン, プロポフォール, デクスメデトミジン) がインスリン分泌および内因性GLP-1分泌に及ぼす作用を検討し, これらの研究成果について学会発表を行った。 1. 膵頭灌流試験: 正常雌性ラットから摘出した膵頭を用いた灌流試験において, イソフルラン (0.5 mM; 1MAC相当) は高血糖誘発性インスリン分泌 (GIS)を抑制した。一方, プロポフォールは10 µMという高い濃度においてもGISに影響を与えなかった。デクスメデトミジンは, 臨床使用濃度では有意な影響はなかったが, より高濃度 (10 µM以上)ではGISを抑制した。 2. in vivo GLP-1濃度測定試験: 各種麻酔薬がGLP-1分泌に及ぼす影響をラットを用いたin vivo実験系で検討した。それぞれの麻酔薬の麻酔深度は, ラットの正向反射が消失する最小投与量で行った。その結果, イソフルランおよびプロポフォールは, 同程度にGLP-1の血中濃度 (5-10 pM) を低下させた。一方, デクスメデトミジンはGLP-1濃度に影響を及ぼさなかった。 3. in vitro GLP-1分泌試験: イソフルランおよびプロポフォールのGLP-1分泌抑制作用の機序を解明するために, ヒト腸管NCI-H716細胞からのGLP-1分泌に対する影響を検討した。NCI-H716細胞の細胞外グルコール濃度を増加すると, 濃度依存性にGLP-1の分泌量が増加し, この反応をイソフルラン (0.5 mM)とプロポフォールは (10 µM) は抑制した。 以上の成果から, 麻酔薬のインスリン分泌および内因性GLP-1分泌に及ぼす作用は, 麻酔薬の種類によって異なることが示された。今後, これらが臨床上どのような意義があるか検討をする必要がると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の現在までの到達度は概ね計画通りに進行していると考えられる。 特に, in vivoでの実験成果がNCI-H716細胞を用いたin vitroでの実験系でも再現できた。このことにより, イソフルランとプロポフォールがGLP-1の分泌を抑制する機序に関して, それぞれ異なるイオンチャネルを介する作用であることが明らかとなった。来年度は, これらの相互作用を明らかにすることにより, 麻酔中のGLP-1分泌の抑制を予防する方法を検討していきたい。 また, 内因性GLP-1分泌に対する麻酔薬の影響に関しては, ほぼ予定どおり全ての麻酔薬での検討を終えることができ, 成果の一部は学会で発表した。 一方, 外因性GLP-1によるインスリン分泌に対する各種麻酔薬の影響に関しては, ラットにおけるGLP-1投与の指摘投与量の設定に予定よりも時間がかかった。ただし, インスリン濃度に僅かに影響する少量投与量と, 明らかな分泌亢進がみられる高投与量を決定することができた。当初の予定では, 今年度中に外因性GLP-1投与試験を開始する予定であったが, 次年度からのスタートとなった。このため本実験に使用するGLP-1および実験動物購入のための研究費が未使用となり来年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに, ① 内因性GLP-1の分泌動態 (絶食時の基礎値およびブドウ糖負荷時の誘発値) とそれに対応じた血糖調節因子に及ぼす各種麻酔・鎮静薬の影響, ② 各種麻酔・鎮静薬がインスリン分泌作用に及ぼす影響とGLP-1の相互作用, の検討を行うことができた。特に, 膵臓からのインスリン分泌および小腸からの内因性GLP-1分泌に及ぼす影響は麻酔薬の種類および使用する濃度によって異なることが示された。これらの結果を踏まえて来年は以下の検討を行いたい。 1. NCI-H716細胞を用いたin vitro実験で, 各種麻酔薬のGLP-1分泌に及ぼすさらに詳細な機序をパッチクランプ法を用いて検討する。パッチクランプ法を用いた電気生理実験を行う準備は整っている。得られた成果から, 麻酔中のGLP-1分泌の抑制を予防する方法を検討していきたい。 2. GLP-1と麻酔・鎮静薬の相互作用の機序解明を膵臓β細胞に対するパッチクランプ法を用いることによって検討する。これまで成果から, GLP-1はK+チャネル活性を抑制することにより細胞膜を脱分極すると考えられる。細胞膜を膜電位変化および単一K+チャネル電流はパッチ/微小電極増幅器とデータ取得装置により実験データとして記録し, Prism 4.0cを用いて解析する。 3. ここまでの研究結果を基に, 各種麻酔・鎮静下の外因性GLP-1持続投与の効果をin vivoモデル動物を用いて検討する。GLP-1 (1-10 pm/kg/min) の持続投与を開始し, その安全性 (低血糖が発生するか) および有効性 (インスリン分泌能・血糖調節能) を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は, 外因性GLP-1によるインスリン分泌に対する各種麻酔薬の影響に関する実験を介する予定であった。しかし, ラットにおけるGLP-1投与の指摘投与量の設定に予定よりも時間がかかった。今年度までに, インスリン分泌に軽度に影響する外因性GLP-1の少量投与量と, 明らかな分泌亢進がみられる高投与量を決定することは出来ている。しかし, 当初の予定では, 今年度中に外因性GLP-1投与試験を開始する予定であったが, 次年度からのスタートとなった。このため本実験に使用する試薬 (外因性GLP-1製剤)および実験動物購入のための研究費が未使用となり来年度に持ち越しとなった。 今年度に開始する予定であった各種麻酔・鎮静下の外因性GLP-1持続投与の効果に対するin vivoモデル実験を来年度早期から開始する。必要な試薬・実験動物は, 今年度の未使用金額によって購入する。その後は, 計画通りにGLP-1 (1-10 pm/kg/min) の持続投与を開始し, その安全性 (低血糖が発生するか) および有効性 (インスリン分泌能・血糖調節能) を評価する。実験の準備は整っており, 予定期間内にすべての実験を終了できる予定である。
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