研究課題/領域番号 |
24592347
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大脇 哲洋 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50322318)
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研究分担者 |
根路銘 安仁 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (00457657)
奥村 浩 鹿児島大学, 医学部・歯学部附属病院, 助教 (10398282)
上野 真一 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (40322317)
夏越 祥次 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (70237577)
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キーワード | 抗酸化力 / 手術侵襲 / 活性酸素 / 外科 |
研究概要 |
肝切除、胃切除、食道切除症例において、その手術侵襲を反映すると考えられる化学反応である、酸化ストレスを測定するd-ROM test (reactive oxygen metabolites test)と、還元である抗酸化力を測定するBAP test(biological anti-oxident potential test)を測定している。 これまでに、胃切除27例、食道切除32例、結腸・直腸切除32例、肝切除50例、膵切除2例、甲状腺切除2例の、術前および術直後のBAP/d-ROMを測定した。当初は、術前、術直後、術後1日目、術後3日目、術後7日目に測定したが、術直後の値が最も手術侵襲を反映していると判断できてきたため、主に術直後の値を測定する事で、手術侵襲の評価は可能と判断した。 その結果、結腸・直腸切除に付いては変動が少なく、腹腔鏡手術でも開腹手術でも大きな差は無かったが(術直後の%値全値が 107.6±8.9程度)、胃癌手術においては、腹腔鏡手術が開腹手術に比べ、術直後のBAP/d-ROM値は有意に低かった(術直後%比較において、109.25±13.0 vs 131.0±21.8 p<0.05)。肝臓癌切除において、腹腔鏡手術が開腹手術に比べ、術直後のBAP/d-ROM値は有意に低かった(術直後%比較において、107.13±5.91 vs 170.4±49.8 p<0.05)。食道癌切除症例では、術直後が%比において137.9±8.でありと、比較した結腸癌の術式と比較して、有意にBAP/d-ROM値は高かった。ここまではおおむね当初の仮説を裏付ける結果が得られている。 術式間比較においては上記のような結果であるが、他の因子(出血量、手術時間、CRP、IL-6、術後合併症)との比較をこれから十分に行い、酸化ストレスに対する、抗酸化力の手術侵襲における意義を今後考察していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要で述べたとおり、胃切除27例、食道切除32例、結腸・直腸切除32例、肝切除50例、膵切除2例、甲状腺切除2例症例の蓄積は順調に進行している。当初目標であった、膵臓切除症例は、症例数の問題や他のプロトコールの問題などで伸展していない。高度侵襲手術においては、生体は抗酸化力を増加させる。酸化ストレスは術直後は未だ高くないが、術後1日目には高くなる。術後1日目の抗酸化力はある程度増強するが、酸化ストレスが大きくなるためにBAP/d-ROMは下降すると考えられる。このような微妙な関係がこの2つの要素にはあり、生体の反応として非常に興味深い。こうした結果が概ね得られたところである。 ①最終年度を迎えて、膵臓切除症例の蓄積は断念し、食道癌切除術の、術前化学放射線療法後の切除症例と、術前化学療法症例、術前無治療症例の酸化ストレス、抗酸化力の比較を行い、術前加療の生体に及ぼす影響を分析する。 ②食道癌症例に付いてはもう少し症例を蓄積する。③内視鏡手術が、開腹手術に比較して、酸化ストレスが低く、また、抗酸化力も維持していることが、この実験結果から判明した。今後の術式による侵襲度評価として有用である可能性が高い。この結果を、他の侵襲評価項目と対比させて検討する。 ④すでに一部学会発表、また論文化しているが、今後も各術式別の評価や、統合した結果などを、発表していく。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展開として、 ① 合併症発生の危険度を術前に評価できる可能性を追求し(合併症が近年極めて少なく、この評価は以前ほど簡単ではないが)、考察する。 ② BAP/d-ROMはこれまでよく考察されてきているが、他の侵襲評価要素と、BAPおよびd-ROMそのものとの関係についても、時間軸などを色々と組み合わせて考察すると、またおもしろい結論が導き出せると考えられる。BAPやd-ROMの上昇は瞬間的な活性酸素の動向に直接左右されることから、その測定時点での状態を表すものと考えられるが、CRP、白血球数やIL-6等は、生体の状態と時間的な解離がある。こうした点を考慮し、様々な因子との組み合わせを考えていく。 ③ 術式以外にも、性別や年齢、術前加療などが、手術の侵襲に大きく関わってくると考えられる。これらの要素についても、サブ解析を行い、注目点を探しだす。 ④ 国際学会での発表を通じて、色々な研究者の意見を聞き、問題点や、発展させ得る点を検討していく。
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