■生体同様の柔軟性を持つThiel法固定した日本人の遺体を用いて解剖学的に検討した. ■腹横筋筋膜面ブロックの範囲:大量の薬液投与と2つの穿刺アプローチの違いが不明なことが臨床上の問題であった.遺体に様々な投与量で行ったところ,肋骨弓下アプローチでは第7~10胸髄領域,中腋窩線アプローチでは第7~第1腰髄領域までの広がりが最大であり,投与量は15mlで十分であった. ■3-in-1ブロックの可能性:大腿神経ブロックで頭側に薬液が広がると,腰神経叢由来の大腿・閉鎖および外側大腿皮神経の同時ブロック(3-in-1ブロック)の可能性が考えられていた.今回,持続ブロック用カテーテルを頭側へ留置して,X線造影剤と色素を混合投与した.X線透視では腰神経叢領域に広がっていたが,肉眼解剖では大腿神経と外側大腿皮神経に色素が広がったが,閉鎖神経は大腰筋が障壁となって広がらなかった. ■坐骨神経ブロックの超音波造影:膝窩部アプローチによる薬液の広がりを,色素,X線造影剤および肝腫瘍診断に用いる超音波用造影剤(ソナゾイド)を混合投与して評価した.通常のBモード超音波画像では正確に評価できなかった.ソナゾイドを用いると,肉眼解剖およびX線造影剤と同様に,薬液の広がりを超音波画像で正確に評価できた. ■以上の結果から,(1)腹横筋筋膜面ブロックの効果範囲と必要な薬液量,(2)大腿神経と外側大腿皮神経を同時にブロックする2-in-1ブロックが可能であること,(3)ソナゾイドにより坐骨神経ブロックの広がりを超音波画像で確認できること,が明らかとなった.体幹および下肢の神経ブロックは大量の局所麻酔薬を用いるが,必要最小限量と効果範囲を決定できた.超音波神経ブロック造影法の開発は安全性と確実性の向上につながり,全身麻酔を回避して神経ブロックのみで麻酔が可能となる.医療経済的にも患者予後にも有益な可能性が示唆された.
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