研究課題
基盤研究(C)
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は骨折、組織傷害や神経損傷などを契機として発症する慢性疼痛症候群であり、灼熱痛、痛覚過敏、アロディニアのような感覚障害に加えて、血管運動障害や浮腫・発汗機能障害、運動・栄養障害の症状を呈する。しかし、CRPS の病態生理にはいまだに不明な点が多く存在し、そのため抜本的な治療法もないのが現状である。そのため、我々はプロテオミクスの手法を用いてCRPS関連タンパク質の同定を試み、CRPSの患者の神経ではコントロールの神経に比べてメタロチオネイン(MT)が著しく減少していることを見出した。本研究では、MTと疼痛の関連のさらなる検討を行なった。坐骨神経部分結紮(PSL)モデルラットに対し、治療群(n=8)には結紮直後にリコンビナントMT20μgを直接坐骨神経上膜下に投与した後、翌日より6日間リコンビナントMT10μgを神経周囲へ経皮的に投与した。対照群(n=8)には治療群と同様の方法でPBSを投与した。術後1、3、5、7日目にvon Freyテスト及びHargreavesテストを行い、疼痛行動を評価した。最終行動評価後に損傷坐骨神経を摘出し、MTの免疫染色を行なった。von Freyテストでは術後5日目以降に、Hargreavesテストでは術後7日目に疼痛行動の有意な減少を認めた。また摘出した坐骨神経において、結紮部周囲では対照群及び治療群で共に染色強度の低下を認めるものの、遠位では対照群では染色強度の明らかな低下が認められたが、治療群ではわずかな低下が認められるだけであった。さらに、PSLラットの損傷神経におけるMTの発現の経時変化を免疫染色により検討したところ、初めに結紮部近位で染色強度が軽度に低下し、その後結紮部遠位でも染色強度の低下が観察された。以上の結果から、MTが神経障害性疼痛の発生に深く関与していることが推察された。
2: おおむね順調に進展している
坐骨神経部分結紮ラットにメタロチオネイン投与することにより疼痛行動が改善することをvon Freyテスト(触覚性アロディニア)及びHargreavesテスト(温熱性痛覚過敏)の2種類のテストにより確認できた。さらに、坐骨神経部分結紮ラットでは時間経過に従って結紮部の近位及び遠位でメタロチオネインが減少していくことも免疫組織染色により確認できた。
今後は、メタロチオネインの疼痛行動に対する効果をさらに検討するために、1) メタロチオネインの疼痛行動への効果の用量依存性の検討、2) 疼痛症状が十分に現れたモデルラットの安定した作製とそのモデルラットへのメタロチオネインの投与実験を行う。また、メタロチオネインI/IIのノックアウトマウスを入手済みであることから、進行状況によってはこのノックアウトマウスの疼痛に関する検討も行う。
該当なし
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Pain
巻: 153 ページ: 532-539
10.1016/j.pain.2011.11.008