本研究の目的は、神経障害性疼痛の予防に有効な薬物治療法の具体化を目標とし、疼痛緩和治療に用いられる抗うつ薬および抗痙攣薬等の薬物による予防効果とそのメカニズムを、電気生理学的実験と行動実験とを用いて調べることである。 薬剤による予防効果を検討する前の段階として、脊髄後角in vivoパッチクランプ法を用いて、神経障害性疼痛モデルラットにおける脊髄後角シナプス活動の変化について、継続して解析を試みてきた。機械的刺激に対する興奮性シナプス電流(EPSCs)の反応および活動電位の発生頻度に関して、実験開始当初はコントロール群と神経障害性疼痛モデル群の間での差を予想したが、実験個体数を増やした結果として明確な差は認めなかった。神経障害性疼痛モデルの脊髄スライスパッチクランプ法で確認されている膠様質神経細胞における細胞内外の陰イオン濃度勾配変化については、in vivo標本でのグラミシジンDを用いたperforatedパッチクランプ記録に技術面で難渋し、追加データが得られなかった。しかし、脊髄後角in vivoパッチクランプ記録を用いた研究を進める中で、鎮痛薬として用いられるトラマドールに脊髄後角膠様質神経細胞のシナプス活動を修飾するという興味深い作用を認めたため、トラマドールの鎮痛メカニズムに関する実験を行った。トラマドール全身投与はEPSCsを抑制し、抑制性シナプス電流を増強した。この作用は主に、オピオイド親和性の高いトラマドール代謝物M1によってもたらされることを示唆する結果が得られた。 また前年度に引き続き、行動実験では、微量持続注入器を用いて薬剤を投与し、神経障害性疼痛予防効果を調べた。ケタミンの持続腹腔内投与には予防効果はなく、ロピバカインの神経結紮部位への持続投与は、薬剤投与終了1週間後に機械的アロディニアの軽減が認められ、さらなる予防効果の検討が必要と考えられた。
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