本研究は、癌の骨転移巣における微小環境の変化とそれに伴う疼痛関連分子の発現動態を解析することで、骨痛の発生メカニズムの解明を目指したものである。前年度までのラット骨転移モデルの後根神経節(DRG)を用いた遺伝子発現解析から、骨転移により発現が増加する分子として、MMP13ならびにATP受容体であるP2x7が得られている。 最終年度は知覚神経におけるMMP13の発現制御機構とその意義を検討する目的で、神経系細胞株F11を用い、MMP13過剰発現株の樹立を試みた。しかし、ラットMMP13を組み込んだGFPベクターを作製し、非神経系細胞株での遺伝子発現は確認できたが、F11では遺伝子の導入効率が低く、様々な手法を試みたものの安定発現株を得ることができなかった。今後はさらに遺伝子導入の改良や、リコンビナントタンパクを用いた検討が必要である。 そこで、MMP13ならびにP2x7の発現を制御する因子について検討を行った。免疫染色の結果、MMP13の発現はDRGニューロンにおいて認められた。一次知覚神経において産生されたタンパクは、軸索輸送によって末梢および脊髄へと運ばれる。MMP13の作用としてIL-1bの切断やMMP9の活性化が報告されていることから、DRGならびに脊髄におけるこれら因子の動態を解析する必要があると考えられる。またMMP13は血管新生作用を有することから、末梢である骨転移巣において癌の悪性化に関与している可能性が推察される。 P2x7はこれまで、疼痛発生への関与について不明な点が多かった分子である。器官培養系を用いた実験から、P2x7はDRGへの酸刺激により発現が誘導されることが示された。酸性微小環境は骨転移巣の特徴のひとつであり、本研究においてP2x7と骨転移との関連を示した点は新しく、疼痛治療の開発においても有用な知見になると思われる。
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