本研究の目的は、癌患者の予後データを含む臨床データに基づいて、患者の予後や癌の進展、治療に対する反応性に深く関わる遺伝子を探索し、癌の進展予知や治療反応性予測マーカーとして、さらには癌治療における新たな分子標的として臨床応用に繋がる分子を同定することを目的とする。本研究では進行性前立腺癌の予後を規定する遺伝的因子として同定したCYP19遺伝子多型の生物学的な機能の解析を行った。 血清性ホルモン値を測定した健常男性164例について、性ホルモンレベル(TS、E2、ASD、E1)と3つのSNPとの関連を検討したところ、血清E1(エストロン)/ASD(アンドロステンジオン)比はrs2470152 Cアレル、rs10459592 Cアレル、rs4775936 Aアレルの用量依存的に増加していた(それぞれP = 0.025、P = 9.55×10-4、P = 6.23×10-5)。これらの遺伝子多型がCYP19遺伝子プロモーター活性(エクソンI.6とPII)に及ぼす影響を、rs10459592 -rs4775936におけるA-GハプロタイプとC-Aハプロタイプを導入した前立腺癌細胞株PC3とDU145を用いて、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより検討した。その結果、エクソンI.6プロモーター活性はC-Aハプロタイプと比較してA-Gハプロタイプにより有意に上昇した(P = 3.33×10-3)。また、rs4775936のバリアントアレルを有する転移性前立腺癌患者の癌特異的生存期間は、バリアントアレルを持たない患者と比較して有意に短かった(52.1 vs 118.2か月、P = 0.040)。 CYP19遺伝子多型は、CYP19遺伝子プロモーター活性を変化させることにより、性ホルモン環境に影響を及ぼし、結果として前立腺癌発症リスクおよび予後に関与していると考えられた。
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