研究課題/領域番号 |
24592376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
末富 崇弘 筑波大学, 医学医療系, 講師 (10574650)
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研究分担者 |
宮崎 淳 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10550246)
西山 博之 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20324642)
小島 崇宏 筑波大学, 医学医療系, 講師 (40626892)
島居 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (80235613)
河合 弘二 筑波大学, 医学医療系, 講師 (90272195)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精巣腫瘍 / ガンキリン / 奇形腫 / 悪性転化 / Rb |
研究概要 |
本研究は精巣腫瘍の発生とその難治化に関与しているCyclin/Rb経路の制御機構を明らかにし、新規分子標的治療のターゲットとなりえる分子生物学的機序の同定を目的とした。Cyclin/Rb経路に関与する蛋白質としてRbタンパクに結合することで過剰なリン酸化を引き起こし、Rb経路の阻害をしているGankyrinという蛋白に注目した。 我々は、まず68例の精巣腫瘍患者における組織からTissue microarrayを作成した。それと同時に精巣腫瘍細胞株(NEC8)と、正常臨床症例をも用いて発現蛋白について検討した。またmRNAの発現についても解析を行った。その結果、GankyrinのmRNAは正常精巣にも精巣腫瘍細胞株にも存在していることを確認した。またTissue microarrayでの免疫染色の結果では、gankyrinはspermatocytesには発現しているものの、spermatogoniaにはほとんど発現していないという正常細胞での発現の違いを確認した。またセミノーマと胎児性癌においては高発現だが、それ以外の組織型では発現が低下していた。また、臨床経過が異なる奇形腫についてもTeratoma、Growing teratoma、Teratoma with malignant transformation(悪性転化した奇形種)でGankyrinの発現が異なっていた。以上の結果を現在論文化している。 精巣腫瘍の発生・分化については諸説あり、精子形成過程の精母細胞からセミノーマやembryocarcinomaが発生し、Embryocarcinomaが更に他のnon-seminomaに分化し、非常に多様な組織型を示すと言われている。今回の結果は、Gankyrin及び下流のリン酸化Rbが精母細胞での減数分裂やそこから発生した精巣腫瘍の細胞増殖に関係している可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガンキリンはCDK4に結合しp16を競合的に阻害し、Rbのリン酸化を促進させることや、Rbをユビキチン化しプロテアソーム分解を加速させる。両者の機序によりガンキリンはRbを不安定化し、転写因子であるE2Fの放出を増加させ、細胞増殖や発がん性形質転換を制御する。正常組織では、肺、脳、脾臓、心臓、筋肉においてガンキリンmRNAが発現していることが報告されているが、その機能は不明である。本研究では、まずGankyrinの発現を、免疫染色法を用いて検討し、正常精巣では精子形成過程の精母細胞から円形精子細胞にかけての減数分裂時期に強く発現することを明らかにした。先攻研究では、ヒト正常精巣のセルトリ細胞や精原細胞、精母細胞、円形精子細胞、伸長精子細胞でRb蛋白は発現しており、そのうち特に精原細胞においてリン酸化Rb Ser795が発現していることが報告されており、この結果は我々の結果とも一致していた。これらの結果から、ガンキリンは精子形成段階、特に減数分裂と関連している可能性が考えられたが、精原細胞の体細胞分裂においてはGankyrin以外の経路でRbリン酸化が亢進しているものと考えられた。さらに我々は、正常精巣、及び臨床検体から得た精巣腫瘍の各組織型、抗癌剤抵抗例の手術検体、剖検検体を含むTissue microarrayを作成することで、他の分子についても素早く検討できる体制を築いた。 本年度はCyclin/Rb経路に関連する蛋白であるガンキリンとリン酸化Rbの発現に関して、免疫組織化学的に検討し、上記の結果を得た。その知見については投稿準備中である。Gankyrin発現、mRNAの発現、蛋白の局在について解明されたが、今後そのほかの経路、特にVEGF経路についての検討も行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果では癌促進因子としてはたらくガンキリンはGrowing teratoma やTeratoma with malignant transformationでは抑制されていた。精巣腫瘍の化学療法抵抗性、悪性転化など難治化に関わる要因を解明するために、今後ガンキリン以外の細胞増殖を促進させる因子についてさらに検討する必要があり、上流経路分子を推測し明らかにしていく予定である。 また、新たな試みとして、本年度作成したTissue microarrayを利用して原発巣がPure seminomaでAFPが高値の場合、転移先での非セミの存在を考え非セミとして治療することの正当性を検討することも考えている。この場合、理論的には1)転移先でセミノーマが非セミノーマに分化した、2)原発巣のセミノーマの診断が間違っていた(特にセミノーマと胎児性がんの鑑別は難しい場合がある)などが考えられるが、この点に関する知見はほとんどない。そこで、seminomaにのみ陽性のTLC1と胎児性がんにのみ陽性のDMLT3Lの抗体を用いて、免疫染色を行う。今回のTissue microarrayはPure セミノーマ(20例)と非セミノーマに混在するセミノーマ(8例)を含んでいるため、これらを網羅的に染色し検討する予定である。 また、当初の予定に沿ってteratoma へ分化させた精巣腫瘍細胞株を用いて、CIRP 強制発現系、ノックダウン系、TXNIP 強制発現系やi)で同定された新規分子に関しても同様に作成し、Cyclin/Rb 経路の発現変化をWestern blot やRT-PCR を用いて詳細に解析し、細胞増殖能の変化も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当しない
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