研究実績の概要 |
本研究では骨転移を有する前立腺癌患者の治療前の生検標本を用いてアンドロゲン遮断療法の耐久性、癌特異的生存率を予測できるか検討した。対象は骨転移を有する前立腺癌76例(試験集団46例、検証集団30例)。生検標本をレーザーマイクロダイセクション法にて癌細胞、癌細胞周囲の間質細胞を別々に採取。RNAを抽出しcDNAを作成しqRT-PCRを施行し、臨床病理学的背景因子との関連を解析。試験集団の46名中9名がPSA再燃せず経過観察中、15例が再発あり加療中、22例が癌死。検証集団では5名がPSA再燃せず経過観察中、13例が再発あり加療中、12例が癌死した。年齢、PSA値、T,N分類、EODなどの臨床パラメータを用いてある程度PSA再燃を予測することは可能であったが(AUC= 0.83)、これらの臨床パラメータに間質細胞でのAR、ERαの発現、癌細胞でのSox2, Her2,CRPの発現を加えると高率 (AUC=1.0)にPSA再燃を予測することができた。これらは検証集団でも妥当性が確認された。次に癌特異的生存との関係を検討したところ、10個の予後因子(PSA値、GS,EOD、間質細胞のAR, Klf4, ERα, 癌細胞のOct1, TRIM36, Sox2, c-Mycの発現)が同定された。10個の予後因子を有する個数により46例を3群、favorable 0-3,intermediate 4-7, poor 8-10に分けたところ、3群の5年生存率はそれぞれ90、32、12%であり群間に有意差を認めた(図3)。検証集団でも同様に妥当性を確認した。 治療前の生検標本を用いることで骨転移を有する前立腺癌のPSA再燃、癌特異的生存率を予測することができた。このような分子診断はアンドロゲン遮断療法の効果が低いことが予想される症例の選択と、新規薬剤の併用を行うなどの個別化医療に応用できる。
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