研究課題/領域番号 |
24592399
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
舛森 直哉 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (20295356)
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研究分担者 |
北村 寛 札幌医科大学, 医学部, 講師 (00404674)
西田 幸代 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (10509566)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 幹細胞 |
研究概要 |
①ヒト手術標本からの前立腺がん幹細胞の分離・同定 これまで7名の前立腺癌患者から同意を取得し、根治的前立腺摘除検体におけるがん病巣から組織片を採取した。術前MRI検査を施行しなかった2症例の組織片は良性および悪性・良性の混在成分であった。一方、MRI検査を施行した5例ではいずれもがん病巣を採取することができた。このうち3例にALDEFLUOR® assayを行った。これらの症例では約7%のALDH1高活性細胞集団を認めたが、フローサイトメトリーによる細胞障害が強かった。そこで採取した組織片から単細胞のみが通過可能なフィルターを用いてがん細胞を分離し、sphere forming assayを行った。分離した細胞は2,3日で分裂を開始し、5日目には10数個のsphereを形成し、ヒト前立腺がんにがん幹細胞が存在していると言えた。 ②前立腺がん幹細胞の増殖を抑制する方法の検討 ヒト前立腺癌細胞株 22Rv1のALDH1高活性集団をFACS AriaIIで回収しDNA microarray法によって遺伝子解析を行った。ALDH1高活性集団で高発現する遺伝子を調査したところHGF(hepatocyte growth factor)が検出された。ELISA法によりHGF蛋白の分泌を調べたところ、ALDH1高活性集団の培養上清ではHGF蛋白が平均8.297pg/ml検出されたのに対し、低活性集団では平均1.644pg/mlであり、有意にがん幹細胞集団でHGFの分泌が高かった。一方、受容体であるMETの遺伝子発現は両集団で同様であった。さらにMETをknock downした細胞では造腫瘍能は有意に低下した。がん幹細胞からのHGF自己分泌が癌幹細胞の維持および非癌幹細胞の増殖に関与している可能性があり、これを抑制する方法ががん幹細胞を標的とした治療につながると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前立腺癌患者からの検討ではALDEFLUOR® assayは可能であるものの、細胞へのダメージが強いため、がん幹細胞特有の細胞表面マーカーを検出するための実験の施行は困難であった。しかしながらsphere forming assayによりがん幹細胞を効率的に増殖させることは可能であることが判明した。さらに、前立腺癌特有のHGFの自己分泌機構の存在を解明できたことは非常に大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
HGFの自己分泌機構が患者検体でも存在するのかを評価する。具体的には、患者検体に対して免疫染色を行い、術後再発とHGF陽性細胞との関連性などを検討せる予定である。また、cMet inhibitorが前立腺癌の転移・再発予防に利用できないかを実験的に検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
①免疫染色 当科のデータベースより前立腺全摘患者を抽出する。患者より得られた前立腺全摘標本を対象にHGFの免疫染色を施行する。診療録上のアウトカムとHGF発現の関係を検討する。 ②cMet inhibitor 最近cMet inhibitorであるリロツムマブの安全性・忍容性が確認されている。本邦では現在胃癌に対する第一相臨床試験が行われており、今後の研究の発展が期待されている。前立腺癌に対してもこれが特異的に効果を発揮するかどうかを検討する。 ③HGFには免疫の逃避作用があることが推測されており(細胞が障害を受けた時、免疫細胞が破壊を回避して細胞治癒と増殖を促す)、これが前立腺癌に対する癌ワクチンの効果が低い理由の一つとも考えられる。末梢血のリンパ球をペプチドで刺激して、HGFやcMet inhibitorの添加によるリンパ球活性の変化を検討する。 平成24年度は755756円の残額が発生したが、これは海外学会での発表が受理されずに旅費が発生しなかったこと、分担研究者の妊娠・出産に伴い、一部の実験が次年度に繰り越しになったことに起因する。次年度は海外学会での発表が受理されており、分担研究者の育児もひと段落したために予定の研究費の使用が可能と考えている。
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