研究概要 |
①ヒト手術標本からの前立腺がん幹細胞の分離・同定 ヒト前立腺癌細胞株に対しALDH1マーカーを用いて前立腺癌幹細胞集団の同定を行い,ALDH1活性の高い細胞集団に癌幹細胞が多く含まれること(J Urol 2012;188:294-9),それらの細胞ではhepatocyte growth factor(HGF)を自己分泌する機構が備わっていることを報告した(Cancer Sci 2013;104:431-6).前立腺癌症例におけるHGFの役割を評価するため,摘出標本の免疫染色を行いPSA再発との関係を調べた.2008~2011年に腹腔鏡下前立腺摘除術を施行した51例を対象とし(札幌医科大学自主臨床研究承認番号:25-36),摘出標本をHGFで染色し陽性率,濃度を評価した.予後予測能評価のためHGFの陽性率と濃度のROC解析を行った結果,カットオフ値を陽性率5%に設定した.51例中PSA再発を来した症例は6例であった.HGF陽性率5%以上の症例群は5%未満に比較し有意にPSA再発までの期間が短かった(P=0.001).多変量解析では術前PSAとHGF陽性率5%以上が有意な独立したPSA再発の予測因子であった.以上より,新規前立腺癌幹細胞マーカーのHGFにより,前立腺癌術後早期に再発の危険性を指摘できる可能性が示唆された. ②前立腺がん幹細胞の増殖を抑制する方法の検討 前立腺がん幹細胞からのHGF自己分泌が癌幹細胞の維持に重要な役割を果たしており,これを抑制する方法ががん幹細胞を標的とした治療につながると考えられた.そこでヒト前立腺癌細胞株22Rv1,LNCaPに対しHGFの受容体であるcMetを抑制する試薬の一つであるCrizotinibを用いて細胞増殖試験を行った.いずれの細胞株もコントロールと比較し0.5μM以上の濃度で十分に細胞増殖が抑制された.また無血清,非接触性プレートにおいてCrizotinib 1.0μMの濃度で細胞集塊形成試験を行ったところ,22Rv1ではコントロールと比較し試験開始5日目で有意に集塊形成能が低下し,癌幹細胞の抑制が可能であると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
Crizotinibが実際に前立腺癌幹細胞集団に対して効果があるのか、in vivoでの検討が必要と考えている。 ① 前立腺癌がん幹細胞集団に対するCrizotinib治療効果判定 1) ヒト前立腺癌細胞株22rv1に対してALDH1活性分析を行い、がん幹細胞集団を分離する。マウス皮下に移植し4週間後に腫瘍形成を確認する。 2) cMet inhibitorの前立腺癌がん細胞に対する効果判定 マウスに腫瘍が生着したとことで、Crizotinibを飲用水内に100, 200, 500mg/dayとなるよう混ぜ連日投与する。非がん幹細胞集団移植群とともに腫瘍サイズの変化を7日毎に測定する。 また前立腺癌の中でも一般的な内分泌療法に反応せず予後不良な前立腺小細胞癌に対しての研究も予定している。Crizotinibが当科で樹立した前立腺小細胞癌株(NE cell)に対して細胞増殖を抑制することもわかっており、さらなるin vivoでの研究を行う予定である。
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