研究課題/領域番号 |
24592401
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
加藤 利基 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (60444965)
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研究分担者 |
郡 健二郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30122047)
林 祐太郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40238134)
小島 祥敬 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60305539)
神沢 英幸 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (00551277)
水野 健太郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70448710)
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キーワード | 精巣腫瘍 / 停留精巣 |
研究概要 |
泌尿器科先天性疾患の中で、停留精巣は最も頻度が高く、その合併症のひとつが精巣腫瘍である。しかし、停留精巣に関連した精巣の悪性化におけるメカニズムは、未だ明らかになっていないのが現状である。また、停留精巣に対して精巣固定術を行ったとしても、必ずしも精巣腫瘍の発症を回避できるものではなく、精巣固定術に加えた新規治療法の開発が急務である。本研究では、停留精巣に合併した精巣腫瘍の発症メカニズムを調べることを目的とする。 研究計画では、精巣腫瘍発生の責任遺伝子の同定や、腫瘍発生メカニズムの解明を行うためにマイクロアレイ解析や培養細胞による実験を予定していたが、当該年度では、(1) ヒト精巣腫瘍における新規の幹細胞マーカーであるUTF1の発現を定量PCR法、免役染色によって確認した。さらに、(2)停留精巣モデルを用い、精子幹細胞の分化メカニズムをmicroRNAに注目して検討した。以下にその概要を述べる。 (1) 精巣がん発生には、精子幹細胞の特性変化が関与すると考えられているが、私たちは、UTF1が精子幹細胞の挙動をあらわす特異的マーカーであることを動物実験から確認している(Kamisawa H, Mizuno K, et al. J Urol., 2012)。このUTF1を用い、ヒト精巣腫瘍において、組織型によって発現量が異なることを明らかにした。 (2) 近年、DNA メチル化・ヒストン修飾・microRNAなど、DNAの塩基配列によらない遺伝子発現制御機構の重要性が高まっている。精子幹細胞の分化過程における、これらエピジェネティックな発現調節機構は全く不明であるため、実験動物におけるマイクロアレイ解析から、miR-135aが関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、ES細胞分化誘導系を用いた精巣がん発症メカニズムの解明のため、培養細胞を用いた実験を予定していたが、ヒト精巣腫瘍の組織を用いた検討を行った。また、停留精巣モデル動物を用いてマイクロアレイ解析を行い、特異的発現を示す遺伝子群を探索した。この解析には、mRNA と、mircoRNA の両方で検討を行い、本年度はこのうちmicroRNAの解析結果をまとめ上げることに成功した。ラット停留精巣におけるマイクロアレイ解析から5つのmicroRNA変化を同定し、定量RT-PCRからmiR-135aが有意に発現低下していることを確認できた。さらに複数の予測プログラムから、miR-135aの標的遺伝子としてFoxO1遺伝子を同定することができた。他の研究グループからも、FoxO1遺伝子はマウスの精子幹細胞における多能性を維持するために働くことが報告されており、私たちの研究成果との整合性が確認された。 また、mRNAの解析においても、精子幹細胞の分化においてヒストン脱メチル化酵素の一つである、Kdm5aが関与することを示すことができた。Kdm5aは、ヒストンタンパクH3K4を脱メチル化することで遺伝子発現を制御することが知られており、精子幹細胞の分化過程でもこうしたエピジェネティックな発現調節機構が働くことが示されたのは初めてのことと思われた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた結果から、miR-135aや、その標的遺伝子であるFoxO1遺伝子のさらなる機能解析を進めたい。また、ヒト精巣腫瘍の組織中におけるこれらの遺伝子発現変化を解析し、精巣腫瘍の発生におけるこれら遺伝子の役割を明らかにしたいと考えている。また、ES細胞を用いた細胞分化誘導系に、これらの遺伝子を強発現させる実験も計画中である。 研究体制に基づき、情報開示・学会発表を適宜行いつつ、研究分担者からの指導・協力のもとに進めていく予定である。また、細胞培養や遺伝子導入などの実験には、継続的な細胞培養の操作や専門的な知識が必要であるため、技術補助員や研究分担者との連携をはかりつつ、効率的に研究を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画では、研究内容発表のため旅費を計画していたが、当該年度では旅費を使用することがなかったため、次年度使用額が生じたと考えられた。 これまでに得られた研究成果を国内外の関連学会で研究発表するための旅費の一部として使用することを計画している。また、今後は細胞培養の操作が増えることが予測されるため、培養液、各種試薬、人件費、などに充当する計画を立てている。
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