研究課題/領域番号 |
24592410
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
水野 隆一 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (60383824)
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研究分担者 |
大家 基嗣 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00213885)
浅沼 宏 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70245570)
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キーワード | 腎細胞癌 / 分子標的治療 |
研究概要 |
腎細胞癌(RCC)は尿細管から発生する腺癌であるため抗癌剤や放射線治療に抵抗性であり、転移性RCCの治療にはインターフェロンやインターロイキンを用いた免疫療法が長らく行われてきた。近年RCCの発生・進展のメカニズムが分子レベルで解明されると、VHL遺伝子の不活性化から血管内皮増殖因子(VEGF)などが恒常的に産生されていることが明らかとなり、VEGF経路をターゲットとした分子標的治療が開発されるようになった。VEGF経路をターゲットとするチロシンキナーゼ阻害剤による分子標的治療の登場は進行性腎細胞癌患者や臨床の現場にとって大きな福音であった。しかしながら現状ではこれらのチロシンキナーゼ阻害剤を用いても半数近くの症例が1年以内に治療抵抗性となってしまっている。このような状況の下、哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mTOR)を阻害する新たな分子標的薬が開発され、わが国においても承認されることとなった。現在では進行性腎細胞癌に対して国内でも数種類の分子標的薬が使用可能であり、それらの薬剤はいずれもVEGF経路あるいはmTOR経路を分子標的としている。このように、新たな治療薬の登場によってRCCの多くを占める淡明細胞癌に対する治療戦略は進歩を遂げている。しかしながら透析患者に生じる腎細胞癌、すなわち透析腎癌はVHL遺伝子変異が比較的少ないことが明らかにされており、チロシンキナーゼ阻害剤への反応は良くない。むしろmTOR阻害薬の方が抗腫瘍効果を示す場合もある。現在、mTOR阻害薬抵抗性となった進行性透析腎癌に対する有効な治療法は未だ見つかっておらず、その治療抵抗性メカニズムの解明と克服はこの治療抵抗性癌克服のための緊急の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
収集検体の増加に伴い、通常腎癌と透析腎癌の免疫染色を追加施行した。リン酸化mTOR(p-mTOR)の染色を追加したところ、通常腎癌より透析腎癌においてよりリン酸化が亢進している可能性が示唆された。さらには健常腎と比較して終末腎ではmTORのリン酸化が亢進していることが示された。 細胞実験ではmTOR阻害薬、Akt阻害薬、MKP-1阻害薬はいずれも殺細胞効果を示した。しかしながら今回使用したMKP-1阻害薬(Ro-318220)はMKP-1特異的な作用ではなかった。併用試験では、mTOR阻害薬とAkt阻害薬の併用によって殺細胞効果が増強されることが確認された。FACSを用いた解析では、mTOR阻害薬およびAkt阻害薬を作用させることでアポトーシスが誘導されていることが確認された。現在mTOR阻害薬を投与する前後でのmTOR経路の変化を見るべくPI3/Akt/mTOR経路PCRアレイを用いて検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
前年までの研究結果より透析腎癌では通常腎癌に比較してmTOR経路が亢進していることが示唆された。その結果から、透析腎癌のファーストライン治療薬としてはチロシンキナーゼ阻害薬よりもむしろmTOR阻害薬が治療効果がよいのではと予想される。そのため、実際の透析腎癌症例でファーストライン治療としてチロシンキナーゼ阻害薬とmTOR阻害薬をそれぞれ使用した症例の無増悪生存期間を後向きに検討してみることで臨床へのフィードバックが可能となる。 また、mTOR阻害薬への抵抗性を克服するためには、mTOR阻害薬投与後の組織を用いた解析が必要となる。症例数は少ないもののそれらの症例の検討によりmTOR阻害薬抵抗性となった透析腎癌細胞における活性化経路が明らかとなれば、細胞実験でmTOR阻害薬抵抗性を克服できるような薬剤を検討することが可能となる。
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