本研究では、転移性透析腎癌の治療抵抗性の克服を目的とした基礎研究を行った。まずは当施設において実際に分子標的治療を受けている進行性腎細胞癌症例のデータベースを作成した。データベースの中から透析腎癌症例を含むチロシンキナーゼ阻害剤かつmTOR阻害剤治療を受けた進行性腎細胞がん症例を解析した。治療成績と予後予測因子をまとめて2014年の日本泌尿器科学会総会で報告しInternational Journal of Urology誌で論文発表することができた。次に通常腎癌と透析腎癌組織を用いたmTOR経路に関する免疫染色を行った。通常腎癌に比較して透析腎癌では血管密度が低くmTORの活性化の頻度が高いことが明らかとなった。また、透析腎の尿細管では恒常的にmTORの活性化が確認され、透析腎癌にこの活性化が反映されている可能性が示唆された。この結果は2014年の日本透析医学会総会にて発表した。細胞実験では当科で樹立した透析腎癌細胞株にチロシンキナーゼ阻害剤を作用させて抗腫瘍効果とmTOR経路の変化を確認した。この細胞株はVHL蛋白が発現しておらず、VEGFが恒常的に産生されているのが特徴である。チロシンキナーゼ阻害剤によってVEGFの発現は低下し、殺細胞効果が見られることが確認された。低濃度のチロシンキナーゼ阻害剤によって細胞培養を継続するとベースラインで活性化しているmTOR経路がさらに活性化することが明らかとなり、治療抵抗性の一因となっていることが示唆された。
|