研究実績の概要 |
われわれの研究室では、これまでに前立腺癌に対する新規バイオマーカーの探索のため、低グリソンスコア、高グリソンスコア、転移性前立腺癌患者のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)前立腺組織を用いたプロテオミクス解析を行うことで、臨床的に有用性の高いバイオマーカーを発見することを目的としている。 平成24年~25年度には、プロテオミクス解析で同定された371種類のたんぱく質のパスウェイ解析を行い、発癌に伴い活性化するパスウェイを10経路、低分化癌のみで活性化するもの23経路、転移癌でのみ活性化するもの9経路、さらに高分化癌で活性化し、低分化癌および転移癌で非活性化するもの16経路を同定した。さらにこの経路の中から新規バイオマーカー候補として、発現差の大きい順に49分子を特定した。その中から特に癌と非癌部での発現差の大きいMCCC2およびFASNに関して、前立腺癌全摘標本76例を対象として、免疫組織化学法にて発現解析を行った。結果、MCCC2の発現は76例の前立腺癌組織中62例で認められ、臨床検体においても前立腺癌で有意に発現が亢進していることが確認された(P<0.0001)。 平成26年度は癌のステージ、グレードとの関連性について、さらに検討を進めた。MCCC2の発現は、年齢、PSA,グリソンスコア、腫瘍容量、予後との明らかな相関を認めなかった。しかし、全体的な発現率、強度は正常組織に比べ、腫瘍細胞が高いものの、すべての正常組織が軽度MCCC2を発現していたのに対し、腫瘍細胞の中には、全くMCCC2を発現していない症例が存在した。さらに、MCCC2を全く発現しない症例は、より進行癌に多いという結果が得られた。 以上より、MCCC2は前立腺癌の発癌とは異なる機序で、癌の進展にも何らかの役割を果たしていることが示唆された。
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