本研究では、これまで行われてきたがんに対する免疫細胞療法を、より容易に実施できるための細胞傷害性T細胞(CTL)の増幅法の改良、また、種々抗がん剤との併用による有効性の向上を目指して実施してきた。予定していたHLAタイプの患者リンパ球がなかなか入手できなかったため、ヒト培養がん細胞株にCMVペプチド発現遺伝子を導入し、CMVペプチドをがん抗原の代用として解析を進めてきた。 CMVペプチドに対するCTLは、培養1週間で、総リンパ球のおよそ50%がCMVテトラマー陽性となり、2週間では約90%が陽性となり、容易にCTLの増幅が得られた。得られたCTLを用いてシスプラチン、5-FU、ゲムシタビン、ドセタキセル、イレッサ、ソラフェニブ等の抗がん剤の影響を確認したところ、イレッサ、ソラフェニブでは、CTLの反応阻害効果、増殖阻害効果、直接傷害性については認められなかった。5FUでは増殖阻害は認められず、併用の可能性が示されたが、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチンではCTLの増殖阻害効果が認められ、CTLとの併用は困難である事が示された。さらに、5FU処理をしたがん細胞株では、CTLに対する感受性の増強が認められ、抗がん剤との併用により、より免疫細胞療法の効果の増強が期待できることが明らかとなった。 現在、免疫チェックポイント分子に対する抗体による免疫治療への期待が高まっているが、免疫抑制機構の解除だけでは治療効果の向上は望めないと考えており、今後は、それら抗体医薬と細胞治療との複合的免疫治療法の開発が必要と考えている。
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