研究課題/領域番号 |
24592432
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
千馬 正敬 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (60216562)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 陰茎癌 / ケニア:タイ |
研究概要 |
収集した陰茎癌の病理組織標本を光学顕微鏡で、検索した。その組織型、分化度を検索した。また病理標本を用いてヒトパピローマウイルス(HPV)をインサイッハイブリダイゼーション(ISH)でHPVの陽性率を検索した。 熱帯地域のアフリカのケニヤ国の陰茎癌の症例では、角化型扁平上皮癌が86%、非角化型扁平上皮癌が14%であった。角化型扁平上皮癌の93%がHPVのISHで陽性であった。他方、非角化型扁平上皮癌では、67%がHPVのISHで陽性であった。なお、良性腫瘍のコンジローマでは、100%がHPVのISHで陽性であった。 亜熱帯地域のタイ国の陰茎癌の症例では、角化型扁平上皮癌が81%、非角化型扁平上皮癌が19%であった。角化型扁平癌の54%がHPVのISHで陽性を示した。他方、非角化型扁平上皮癌では、50%がHPVのISHで陽性であった。なお、良性腫瘍のコンジローマでは、100%がHPVのISHで陽性であった。 温帯地域の日本の陰茎癌の症例では、角化型扁平上皮癌が71%、非角化型扁平上皮癌が29%であった。角化型扁平癌の40%がHPVのISHで陽性を示した。他方、非角化型扁平上皮癌では、25%がHPVのISHで陽性であった。なお、良性腫瘍のコンジローマでは、30%がHPVのISHで陽性であった。 陰茎癌の病理組織を用いて組織内のHPV-DNAの検索は、PCRを用いたHPV-DNAと比較して感度が低いが、各種のHPV産生物質の検出との相関性は、PCRと比較して高い。このことは、ある一定以上のHPVの感染量がなければ、各種のHPV産生物質が検出されにくいと考えられるので、ISHによるHPVの検出法は、今後のサイトカインなどの産生物質の活性の検索に役立つと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HPVによる腫瘍、特に陰茎癌、子宮頚癌、口腔癌などは、社会および衛生状態の劣悪な熱帯地域、亜熱帯地域の開発途上国では、重要な疾患である。先進国である日本では、比較的少ない腫瘍である。 感染に起因している癌死の比率は、発展途上国では20%から25%、先進国では、7%から10%であると推測されている。慢性炎症と発癌との関連性は、広く受け入れられている。特に、腫瘍ウイルスとヒト癌との関連性に強い相関性がある。熱帯地域および亜熱帯地域の発展途上国においては、先進諸国と異なり、発癌ウイルスが関与した悪性腫瘍である、悪性リンパ腫、肝細胞癌、子宮頚癌、陰茎癌などの頻度が高い。 当研究において、陰茎癌の角化型扁平上皮癌の熱帯地域のケニア国、亜熱帯地域のタイ国の角化型扁平上皮癌、温帯地域の日本の角化型扁平上皮癌のISHにおけるHPVの陽性率は、93%、81%、40%と熱帯地域、亜熱帯地域、温帯地域の順でHPVの陽性率が低くなっていることが明らかになった。また、陰茎癌の非角化型扁平上皮癌の熱帯地域のケニア国、亜熱帯地域のタイ国の非角化型扁平上皮癌、温帯地域の日本の非角化型扁平上皮癌のISHにおけるHPVの陽性率は、67%、50%、25%と熱帯地域、亜熱帯地域、温帯地域の順でHPVの陽性率が低くなっていることが明らかになった。 陰茎癌の診断名は、世界的にみて同じであるが、その病体は、著しく異なる。ケニア国では、未治療で切除する症例が多いため、切除された組織は、長期間放置されていたため、腫瘍部分が大きくなり角化傾向も日本と比較して強い傾向が見られた。すなわち、今後、未治療の陰茎癌と比較的早期に治療される陰茎癌の癌組織の各種活性物質の比較検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、熱帯地域のケニア国、亜熱帯地域のタイ国、温帯地域の日本の陰茎癌とHPV感染の関連性および、陰茎癌とHPV感染と転写因子、サイトカインの活性との関連性を検索する。 HPVウイルスが宿主の免疫システムから絶滅されるのを逃れて、持続感染となり、そのために慢性炎症から発癌に達すると考えられている。HPVウイルスのE6とE7癌遺伝子は、免疫システムにて感知される。MHC class 1 は、NK細胞とCD8+細胞障害性リンパ球にコントロールされる。このシステムによりHPVウイルスは、宿主の免疫から逃れることが出来る。このためHPVウイルスは、宿主の組織内で長く住み続けることが出来るようになる。 HPVウイルスのE7癌遺伝子は、宿主の癌抑制遺伝子Rbと結合、他方、HPVウイルスのE6癌遺伝子は、宿主の癌抑制遺伝子p53遺伝子と結合して、宿主の細胞を不死化と遺伝子の不安定化を起こさせて発癌へと導く。この過程におけるp53の発現を陰茎癌の病理組織内で免疫組織化学の手法を用いて検索を行う。 これらの過程で、NF-kappaBの過剰発現が起こり、慢性炎症から発癌が起ると推測されるので、陰茎癌の病理組織内のNF-kappaBの発現を免疫組織化学の方法を用いて検索する。他方、扁平上皮癌におけるNF-kappaBの受容体であるToll-like receptor 5 ならびにToll-like receptor 9 の発現を陰茎癌の病理組織内で免疫組織化学の手法を用いて検索する。なお、TNFなどのサイトカインなどの発現も陰茎癌の病理組織内で免疫組織化学の手法を用いて検索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫組織化学の実験を行うために震盪機一式(¥227,651円)、微小の組織標本の撮影のために実体顕微鏡本体に撮影措置一式(¥356,507円)、などを購入した。経費が¥511576円未消化の理由として、初年度は、主に研究材料の収集、分類、整理などに当てたためである。なお、本年度に予定している実験の一部の予備実験なども遂行した。 本年度は、転写因子、サイトカイン、これらの受容体の局在とHPV-DNAとの関連性を検索するための試薬などの購入。なお、研究を補助してくれる人材の人件費の謝金の支出を考えている。
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