研究課題/領域番号 |
24592432
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
千馬 正敬 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (60216562)
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キーワード | 陰茎癌 / ヒト・パピローマウイルス / NF-kappaB / Toll-like receptor / p16 / p53 / p40 |
研究概要 |
ヒト・パピローマウイルスの感染が宿主の免疫機構を回避して感染を成立させて、慢性炎症から癌化する過程のメカニズムを文献の集積および解析により、今後の研究指針となる総説を執筆して出版した。Senba M, Mori N. Mechanisms of viral immune evasion lead to development from chronic inflammation to cancer formation associated with human papillomavirus infection. Oncol Rev, 2012; 6: 135-144. Invited Review 慢性炎症から癌化する過程において、転写因子NF-κBが、重要な役割を担っていると推測されている。このNF-κBのリセプターで、陰茎癌を構成する扁平上皮癌に発現する Toll-like receptor 5 および Toll-like receptor 9 の発現を確かめた。NF-κB が強く発現する症例において、Toll-like receptor 5 およびToll-like receptor 9 は、陰茎癌の核に強く発現していた。 癌抑制遺伝子は、この癌抑制遺伝子の機能を消失することにより癌化することが知られている。比較的新しく発見された癌抑制遺伝子 p40の発現を陰茎癌の組織内に見いだした。癌抑制遺伝子p40は、癌抑制遺伝子p53、p16よりも発現率が陰茎癌の組織内で高かった。また、p53の発現率は、p16よりも高かった。このことから癌抑制遺伝子p40の変異は、陰茎癌の発生に強く関連することを示唆していた。 ミャンマーとの陰茎癌の共同研究をMedical Research-Lower Myanmarの先生達と行う事に合意を得た。この事によりミャンマーの陰茎癌の病理組織(パラフィン・ブロック)が入手可能となり、ミャンマーにおける陰茎癌のHPVのジェノタイプの研究が着手可能と成る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
陰茎癌の発生におけるヒト・パピローマウイルスの感染による、慢性炎症から陰茎癌が発生するメカニズムの解明に、ヒトの外科材料を用いて解析を行って来た。転写因子NF-κBとそのリセプターであるToll-like receptorを陰茎癌の組織内に免疫組織化学の手法を用いて証明した。Toll-like receptorを陰茎癌の組織内に免疫組織化学の手法で証明した論文が皆無なので、意義深いと考えられる。また、癌抑制遺伝子p16、p53、p40なども同様に陰茎癌の病理組織内に免疫組織化学の手法を用いて証明した。なお、癌抑制遺伝子p40の発現に関する論文が僅少であり、陰茎癌の病理組織内にp40の発現を証明した論文は、皆無なので、意義は大きいと考えている。 新たな地域の陰茎癌の集積を行うために Medical Research-Lower Myanmar の先生、およびタイ国チェンマイ大学の先生との陰茎癌の共同研究も進行中である。研究材料である陰茎癌を入手するにあたり、ミャンマーの先生が日本に来て自分自身で研究を行いたいとのことで、日程の調整中である。研究材料(外科材料のパラフィン・ブロック)の提供を行う条件として日本へ留学したいとの要望がある。なお、共同研究を始めるにあたり、直接私に会いたいと申し出があるので、ミャンマーに共同研究の話し合いに行く予定である。ミャンマーおよびタイ国との共同研究は、電子メールによる情報の交換が頻繁になされる割に、実務は、スローペースと言わざるを得ない。後進国の研究者達は、日本人と比較して、時間管理が非常に遅いので、考慮すべきことかもしれない。私が、熱帯医学研究所に所属しているので、熱帯地域の健康に関わる研究に時間がかかっても前向きに新進に取り組んで行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
慢性炎症から陰茎癌が発生する過程において、転写因子 NF-κB が、重要な役割を担っていると考えられる。Toll-like receptorは、各種の免疫細胞に有り、インターロイキン-1のリセプターのシグナル伝達に関わり、宿主の防疫を獲得するために的確な免疫反応を起こすことが、知られている。なお、NF-κB のリセプターである、Toll-like receptor および NF-κB の活性化に関与している、さらにTNFα などの活性をヒトの外科材料を用いて検索して行きたい。 癌発生を抑制する働きのタンパク質を作る、癌抑制遺伝子に異常が生じると正常細胞が癌化する。癌抑制遺伝子p53、RB、p21などを免疫染色して、解析を行いたい。なお、p53は、扁平上皮癌および腺癌の両方の癌組織に対して陽性を示すが、比較してp40は、扁平上皮癌に対して特異性が高いとされているため陰茎癌の診断のための有用性の有無を検証したい。 ミャンマーの陰茎癌の外科材料を収集するために、Medical Research-Lower Myanmar と長年共同研究をされている、長崎大学、医学部の先生と共にミャンマーに行き、病理標本のパラフィン・ブロック、28症例を借りてきたいと考えている。ミャンマーにおける子宮頚癌の症例では、HPV-16、HPV-18、よりもHPV-45、HPV-52、HPV-58 などが多いという報告があり、陰茎癌のヒト・パピローマウイルスのジェノタイプにおいても異なることが考えられるために、今後、是非とも推進して行きたい研究プロジェクトである。ミャンマーにおいて、陰茎癌、子宮頚癌が多い理由として、熱帯の気候に加えて清潔な飲料水および入浴のための水が十分でないことが指摘されている。生活環境と癌化との関連性などもミャンマーに行き調査したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
新たな地域の陰茎癌の集積を行うためにミャンマーのMedical Research-Lower Myanmar の先生、およびタイ国チェンマイ大学の先生との陰茎癌の共同研究に関しまして、陰茎癌の症例(外科材料のパラフィン・ブロック)を昨年6月までに、タイ国チェンマイ大学の先生がミャンマーに行き、借りて来て、私の所に送ってくる予定でした。しかしながら、研究材料である陰茎癌の症例を入手するにあたり、研究材料(外科材料のパラフィン・ブロック)の提供を行う条件としてミャンマーの先生が、日本に来て実験に参加したいと言い出して、当初の約束が破談となったために、当初予定していた陰茎癌の遺伝子解析が出来なかった事で、予算の使用が出来ませんでした。また、研究材料の収集費として、タイ国の先生に、収集にかかる旅費、宿泊費を含めた謝金を出す予定でしたが、これも出来ませんでした。これらの2つの理由から予算を使うことが出来ませんでした。 ミャンマーとの共同研究を始めるにあたり、直接私に会いたいと申し出があるので、ミャンマーに共同研究の話し合いに行く予定である。また、ミャンマーの陰茎癌の外科材料を収集するために、Medical Research-Lower Myanmar と長年共同研究をされている、長崎大学、医学部の先生と共にミャンマーに行き、陰茎癌の共同研究が遂行できるようにしたい。ミャンマーにおける子宮頚癌の症例では、HPV-16、HPV-18、よりも他のタイプなどが多いという報告があり、陰茎癌のヒト・パピローマウイルスのジェノタイプにおいても異なることが考えられるために、是非とも推進して行きたい。なお、私が、熱帯医学研究所に所属しているので、熱帯地域の健康に関わる研究に時間がかかっても前向きに新進に取り組んで行きたい。研究材料の収集および遺伝子解析を行うことにより研究費を有効に使用できると考えている。
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