研究課題/領域番号 |
24592435
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
丸山 哲史 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50305546)
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研究分担者 |
郡 健二郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30122047)
林 祐太郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40238134)
小島 祥敬 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60305539)
水野 健太郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70448710)
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キーワード | KIT陽性細胞 / 尿路上皮細胞 / シェアーストレス / ホローファイバー / 伸展刺激 / 上皮間葉系誘導 / 細胞工学 / 再生医療 |
研究概要 |
作成した平滑筋細胞層が組織全体としての方向性と強弱をもった統一性のあるいわゆる蠕動運動を誘起し、効率的な尿移送が可能となった。ホローファイバーシステムに律動的な電気刺激を加えることで平滑筋組織に方向性をもった空間的配置が確立され、電気的結合も強化された。更に、サイトカイン刺激を加えることでKit陽性間質細胞がこのシステム内に誘導され、平滑筋組織に自動能がもたらされることが示唆された。 私たちは幹細胞を用いた再生医療と細胞工学の技術とを相補的に利用し、尿路上皮および平滑筋組織を誘導した機能的尿路組織の再生を目標としてきた。尿道および尿管においては径の細い管状構造が尿流にさらされることから、圧力のみでなくシェアーストレスなどより高次の力学的ストレスに対する強度をもった組織構造が必要とされる。この点で血管内皮細胞系の細胞モデルにおいて研究実績があるホローファイバー(中空糸)システムでは、尿路上皮および平滑筋の重層構造をもたせることが効率的に可能であった。この原理に着目し平滑筋細胞層に接して間質細胞を共培養することにより、組織全体としても統一性あるいわゆる蠕動運動をする機能的尿路の再建を目標とした。 実際の臨床応用においては組織レベルの物理的サイズと強度が必要で、プロセスの更なる効率化が課題である。出発点としてES細胞などを用いればより非侵襲的な方法となる。ES細胞由来の細胞群を基に尿路上皮やその周囲の組織を得ることも検討中である。幹細胞を用いることにより、他の臓器を傷つけることなくより低侵襲になり、生理的および機能的に望ましい治療法が期待できる。今までとは違った治療法へ発展させる事ができる可能性も示唆された。尿路上皮や平滑筋の幹細胞が利用できれば、未分化状態を維持したままの分裂増殖により、大きく欠損した尿路を補うのに十分な量の新しい組織を得ることが可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホローファイバー(中空糸)を用いた尿路上皮細胞の培養:中空糸周囲空間(extra capillary space/ ECS)に細胞を培養した。中空糸は高い物質交換特性を持ち、細胞に養分と酸素を供給し、老廃物(アンモニア、乳酸)を除去する。ポンプを用いて培養液を環流させることで、自動的に栄養を供給し老廃物を除去できる。中空糸の外径は200-630μm、膜厚は8-150μmとなる。透析面積は123-2200cm2, ECS 1.4-12mlである。このシステムを用いて尿路上皮に対して、経時的に細胞数の算定および位相差顕微鏡での形態観察を行った。その増殖能、活性および形態学的特徴を評価し、最適な培養期間および培養の条件等を検討した。 流れ刺激による上皮細胞の空間的配列作成:環流する培養液にさらすことでシェアーストレス下での培養を施行した。これにより培養した上皮細胞は流れに沿った矩形の形態を呈した。ストレスファイバーに代表される細胞骨格とfocal adhesion plaqueを持ち、また互いにtight junctionが形成されることを、電子顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡を用いて3次元的に免疫組織学的確認をおこなった。さらに、ECSに平滑筋細胞を共培養し機能的な尿路組織モデルを作成した。 電気刺激およびサイトカインによる細胞分化誘導:培養液に一定方向の周期的に強度が変調する電場を負荷することで、平滑筋組織の空間的配置に方向性が持たされ電気的結合が強化された。さらに平滑筋細胞層が方向性と強弱をもった統一性ある運動をした。適切なサイトカイン刺激を加えることでKit陽性間質細胞をこのシステム内に誘導し、平滑筋組織に自動能がもたらされた。このことにより組織全体としての効率的な尿移送(いわゆる蠕動運動)が期待された。
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今後の研究の推進方策 |
EMT誘導:一部の上皮細胞はEMTを来たし平滑筋へと再分化した。その過程を免疫組織学的に追跡する。この際には、上皮系細胞のマーカーであるサイトケラチンと間葉系細胞のマーカーであるビメンチンの分布を検討する。アクチンミクロフィラメントやギャップジャンクションを確認する。 ES細胞への遺伝子導入、尿路上皮細胞系の確立:培養したES細胞を0.25%トリプシンEDTA溶液にて回収し、1 x 107個の細胞に対し20μgの導入する遺伝子を組み込んであるプラスミドDNAを用意し、electropolation法を行い、遺伝子を導入する。48時間、遺伝子導入ES細胞をLIF除去溶液中で培養し、hanging drop法を用いembryoid body(胚様体:EB)を形成させ、分化させる。5日後にEBを再度ディッシュに付着させて分化を進め、時間の経過とともに細胞を回収し他の尿路発生の各段階で発現してくる遺伝子に変化がないかどうか、また細胞の形態変化なども評価する。以上の実験において特出される導入遺伝子とそれに対応して発現する遺伝子群、また分化させたときの形態などから標的となる尿路上皮(移行上皮)やその周囲の組織(平滑筋など)を同定し、その特異的な抗原を用いたflow cytometreyで細胞のソート(FACS)を施行し、単一の前駆細胞の抽出を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
EMT誘導など細胞分化効率が低いことなどで、予定の実験が十分に行えていない。 具体的には、ストレスファイバーに代表される細胞骨格、focal adhesion plaque およびtight junctionでも、一定以上の流れ強度で飽和現象が生じていた。一方、環流する培養液にさらすことで上皮細胞は流れに沿った矩形の形態を呈しEMY誘導されたが、流れ強度が一定以上では細胞剥離などが一部生じてしまった。 流れ刺激による上皮細胞の空間的配列作成の効率化:ECSに平滑筋細胞を共培養したシステムではその飽和強度が上昇していた。このことは平滑筋細胞との共培養により上皮細胞の機械的強度が強まる可能性を示す。以上から、共培養する平滑筋細胞の濃度を再検討し上皮細胞の分化誘導効率改善を検討する。 電気刺激およびサイトカインによる細胞分化誘導の効率化:培養液に一定方向の周期的に強度が変調する電場を負荷することで、平滑筋組織の空間的配置に方向性が持たされ電気的結合が強化された。ただし、長時間の電気刺激によりKit陽性細胞の誘導率が低下する現象が認められた。強制的な電気刺激により、自動を誘発するKit陽性細胞の活性が抑制されている可能性がある。以上の点を加味して、最適な強制的電気刺激強度の検討、一定の休止期間をもうけるなど間欠的な刺激方法などの検討をする。
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