研究実績の概要 |
尿中分泌細胞小体(exosome)とは、細胞内の小胞由来の膜構造を総称し、尿中exosome は、ネフロンから分泌され40-80 nmの大きさを持つ。尿中exosome は蛋白質のみならずmRNA, およびmicroRNAも含んでいることから、細胞-細胞間相互作用を反映していることが報告されている。常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、2000人に一人発症する難病であり、60歳代までに半数は終末期腎不全へ進行する。ADPKDでは、腎嚢胞の形成により腎の構造が破壊され、濃縮力障害が起こり、バソプレシンが恒常的に高値となる。バソプレシンV2受容体阻害薬は腎嚢胞の増大を抑え、慢性腎臓病(CKD)の進行も抑制する。ADPKDの責任遺伝子はPKD1およびPKD2であり、これらの遺伝子産物であるpolycyctin1および2は尿細管の形態と機能の維持に働いている。ADPKDでは尿細管細胞の極性が失われ、上皮間質転換(EMT)を生じた嚢胞上皮細胞の増殖と間質での血管新生が生じる。マクロ的には嚢胞形成とともに腎実質に炎症が生じ、腎の萎縮が生じる。本研究では、CKD Gstage4患者ならびにADPKD患者から、尿中のexosomeを抽出し、含まれているmicroRNAを網羅的に解析した。この結果以下の特徴的なmicroRNAがCKD患者に比して有意にADPKD患者において増加していた。 i)Wnt/b-catenin/GSK-3 b に関連するmicroRNA: miR200a-3p, miR-346 ii)がん遺伝子の発現を調整するmicroRNA: miR-31-5p iii)腎細胞癌と関与するmicroRNA: miR-106b-5p, miR-21-5p, miR-203a iv)がん抑制遺伝子に関係するもの: miR-502-5p, miR-451a, miR361-5p v)炎症、酸化ストレスの抑制に関与するもの: miR-200c-3p, miR-23a-3p 本研究からADPKDには特異的なmicroRNAが尿中exosomeから検出でき、これらのmicroRNAはADPKDのprognostic, predictive factorとなる可能性があることが示唆された。
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