初年度は、これまで偶発的に発見されてきた胎盤関連因子を系統立てて探索し、生理的に重要な意義を持つ新規因子を発見する事を目的として、独自の細胞材料とマイクロアレイ解析を利用した網羅的スクリーニングを行った。その結果、8つの新規胎盤関連候補遺伝子を見出し、H25年度には、胎盤特異的な遺伝子操作技術を駆使して各候補遺伝子のin vivo機能解析を進めるとともに、遺伝子欠損マウスの作製にも着手した。 最終年度となる本年度は、完成した遺伝子欠損マウスの解析を中心に研究を遂行し、興味深い表現型を示す遺伝子X欠損マウスを見出した。 遺伝子Xは妊娠後期のマウス胎盤で特異的に発現上昇しており、遺伝子X欠損マウスでは出産前後の母仔に複数の異常が観察された。具体的には、胎生18.5日目の胎盤が野生型の2倍以上にまで肥大し、遺伝子X欠損雌雄を交配した雌マウスは、時期が来ても分娩出来ずに死亡した。また、遺伝子X欠損新生仔は体色が明らかに白い貧血様の外観を呈し、その多くは数日以内に死亡するか、著しい成育不全により離乳前に死亡した。胎盤肥大や分娩不全、新生仔貧血や新生仔期高死亡率といった、個々の表現型を呈する遺伝子欠損マウスはこれまでにも報告されているが、全てを同時に引き起こすマウスは前例がない。複数の周産期障害を呈する遺伝子X欠損マウスは、個々の異常についてはもちろんのこと、それぞれがどのように他の異常と関わっているかについて個体レベルで解析できる、全く新しい疾患モデルになり得ると期待できる。
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