卵胞発育の制御システムは、その発育ステージに応じて卵巣内局所調節→卵胞刺激ホルモン(FSH)→黄体化ホルモン(LH)へとダイナミックに変化する。本研究課題では「初期卵胞が発育をスタートし最終的に排卵に至るまでの一連のプロセスにおいて、アンドロゲンを含む莢膜細胞由来の因子が重要な役割を担っており、この莢膜細胞/アンドロゲン系の制御異常は卵胞の発育停止につながるのではないか」と仮説し、その証明を試みてきた。 平成24~25年度は、「高LH環境が、莢膜細胞/アンドロゲン系を過剰に活性化することで、前胞状卵胞のFSH依存性獲得を障害し、卵胞発育を停止させてしまう」ことを実験的に証明し、この卵胞発育停止メカニズムがアジア人女性に特有のやせ型多嚢胞性卵巣症候群(non-obese PCOS)の病態であることを初めて明らかにした。 平成26年度は、「莢膜細胞/アンドロゲン系が正常に機能しないと卵胞発育が停止してしまうのではないか」と考え、検証を試みた。その結果、至適レベルのLH刺激は、①莢膜細胞のアンドロゲン産生を介して、初期の卵胞発育と前胞状卵胞のFSH依存性獲得を誘導すること、②莢膜細胞におけるIGF1とアンドロゲンの産生を促進し、それらが顆粒膜細胞へparacrine的に働きかけることで、卵胞のLH依存性獲得さらには主席卵胞の選択プロセスを誘導すること、を明らかになった。 以上の結果は、排卵誘発に抵抗性を呈するゴナドトロピン不応症(poor responder)やPCOSにおいて、卵巣局所の莢膜細胞/アンドロゲン系を上手く制御することで、卵胞がゴナドトロピン依存性を再獲得し、排卵誘発に対する反応性を回復できる可能性を強く示唆する。
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