研究概要 |
当研究室で樹立したヒト不死化非黄体化顆粒膜細胞に、初期卵胞発育に重要な因子であるGrowth differentiation factor-9 (GDF-9)を添加し、マイクロアレイでコレステロール合成系にかかわる酵素群(HMGCS, HMGCR, SQLE, LSS, CYP51, SC4MOL)の増加をみとめた。定量的RT-PCRでも、GDF-9による上記酵素群の発現上昇を確認した。また、同じく卵胞発育促進にかかわるホルモンであるFSHを添加し、コレステロール合成系酵素発現増加に関し、GDF-9とFSHが相乗効果を有することを発見した。また体外受精採卵時に得られたヒト黄体化顆粒膜細胞初代培養で上記酵素群の発現を解析し、妊娠群と非妊娠群の間で発現に有意差がある物質があることを確認した。これらのデータはヒトの卵胞発育においてコレステロール合成系が関与していることを示すとともに、良好卵の選別マーカーになりうることを示すものである。 もうひとつの脂質メディエーターである顆粒膜細胞で産生されるスフィンゴシン1リン酸(S1P)は、autocrine, paracrineで顆粒膜細胞自身に作用している可能性がある。SIP添加により、ヒト不死化非黄体化顆粒膜細胞ならびに体外受精採卵時に得られた初代培養黄体化顆粒膜細胞の増殖が促進し、細胞増殖シグナルであるPI3K-Akt経路の活性化を確認した。顆粒膜細胞のアポトーシスは卵胞閉鎖の主たる要因であるが、S1Pの添加により酸化ストレス(H2O2添加)による顆粒膜細胞のアポトーシスが抑制されることを見出した。これらのデータはS1Pが、加齢や卵巣毒性物質からの卵巣保護剤として使用できる可能性を示唆するものである。
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