研究課題/領域番号 |
24592471
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10534604)
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キーワード | 子宮筋腫 / DNAメチル化 / X染色体不活性化 / バイオマーカー |
研究概要 |
本課題では,筋腫の発生・進展の機序にX染色体不活性化(XCI)の破綻によるX染色体上の遺伝子の発現異常,あるいはXCIに関わる因子の機能異常が関与する可能性を考え,筋腫で共通して低メチル化変異を呈する遺伝子の検索,およびXCIの異常に関わる因子の特定の2点について検証する。 平成24年度は筋腫で低メチル化変異を呈するX染色体上の2つの遺伝子を特定した。しかしながら,筋腫でこれらの遺伝子は必ずしも高発現しておらず,これらの領域のDNAメチル化は遺伝子発現に関与しないことが判明した。したがって,X染色体上の低メチル化変異遺伝子の発現異常が,筋腫の発生・進展に関与するという仮説は成立しなかった。 平成25年度はXCIの異常に関わる因子の候補を絞り込むため,筋腫におけるXCI関連因子の機能および発現について解析した。まず,XCIに関与するポリコームグループ(PcG)の機能をPcGにより同様な制御を受ける刷込み遺伝子のメチル化状態を指標に評価したところ,刷込み遺伝子に低メチル化変異はほとんど生じておらず,PcGは正常に機能していることが示唆された。また,筋腫におけるPcG関連遺伝子群の発現は正常筋層と比較して変化がみられなかった。従って,X染色体の低メチル化変異はPcGの発現および機能異常に起因したものではないと考えられた。次に,XISTなど既知のXCI関連遺伝子(HNRNPU,SMCHD1,SATB1,SATB2)について,多数症例で発現解析を行った。その結果,これらのなかでSATB2のみが解析した全ての筋腫検体において高発現していることが明らかになり,この遺伝子をXCIの異常に関わる因子の候補遺伝子として特定した。今後はこの遺伝子が子宮筋腫の発生・進展および筋腫におけるX染色体の低メチル化変異に関与するかを異種移植の系を用いた機能解析により検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に目的とした筋腫で共通して低メチル化変異を呈するX染色体上の遺伝子の特定については,2つの遺伝子を得ることが出来た。これらの遺伝子のメチル化状態が発現制御に関与していなかったことは予想外だったが,これらの領域のメチル化状態は現存するもっとも有効な筋腫のバイオマーカーであるMED12遺伝子の突然変異と同程度の精度で,筋腫と筋層を区別するマーカーとして利用できる。 平成25年度はXCIの異常に関わる候補遺伝子の絞り込みを目的として,筋腫におけるXCI関連因子の機能および発現について解析した。その結果,解析した全筋腫検体に共通して高発現したSATB2遺伝子をXCIの異常に関わる因子の候補遺伝子として特定できた。今後はこの遺伝子が子宮筋腫の発生・進展および筋腫におけるX染色体の低メチル化変異に関与するかを機能解析により検証していく。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は1. 異種移植によるSATB2遺伝子の機能解析および2. 筋腫特異的バイオマーカーの同定を行う。 1. 異種移植によるSATB2遺伝子の機能解析:SATB2が子宮筋腫の発生・進展および筋腫におけるX染色体の低メチル化変異に関与するかを異種移植による機能解析で検証する。そのため,まず,ヒト子宮平滑筋細胞株にSATB2発現ベクターを導入した安定発現細胞株を作製し,次に,SATB2安定発現細胞株を免疫不全マウスの腎被膜下に移植するというin vivo子宮筋腫形成モデルを構築する。この子宮筋腫形成モデルに移植した子宮平滑筋細胞株の筋腫化の評価は,2.に示したバイオマーカーを利用して行う。 2. 筋腫特異的バイオマーカーの同定:本課題による機能解析の評価には筋腫と筋層を区別するバイオマーカーが必要だが,現在,有用なマーカーはほとんど存在しない。そこで,DNAメチル化状態を指標にした独自の評価系を構築する。10個程度の遺伝子のメチル化状態を指標として,正常平滑筋と筋腫を明瞭に区別できる遺伝子セットを検索し,パネル化する。現在,バイオマーカー候補として30遺伝子を特定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
筋腫特異的バイオマーカーの同定等を平成26年度に行うことにしたので,購入を予定していた設備備品費について未使用額が生じた。 筋腫特異的バイオマーカーの同定およびそれを利用した機能解析の評価のために,Applied Biosystems社のVeriti 96-wellサーマルサイクラーを購入する。このほかは平成26年度の旅費・物品費と合わせて使用する。
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