研究実績の概要 |
私どもは,これまでおよそ10年間にわたる検討から,子宮内膜症の発生および増殖・進展に関する新たな病態のひとつとして「bacterial contamination hypothesis細菌混入仮説」を提唱し発表した(Khan KN et al., Fertil Steril 94:2860,2010).実際に,子宮内膜症では非内膜症に比較して,月経血中への大腸菌混入が強く,結果として月経血中や腹水中でのエンドトキシン濃度が亢進していることが認められた. これらは,月経血への細菌混入が骨盤内炎症の最初のトリガーとなり,TLR4を介した内膜症組織の増殖に関与することを初めて示したものである.私どもは,子宮腔内への細菌混入について,いくつかの可能性のある機序をin vitroの細菌培養実験で検討してきたが,in vivoでの機序について,子宮腔内局所の抗菌性ペプチドの変化が細菌混入に及ぼす作用についてはこれまで検討されておらず,これらの蛋白が子宮腔内での微生物混入を制御している可能性がある. Defensinファミリーなどの抗菌性ペプチドや分泌型白血球プロテアーゼ阻害物質(secretory leukocyte protease inhibitor, SLPI)は,動物および植物に種横断的に広く存在する宿主生得免疫のメディエーターである. これらの結果は,尿中のHBD-1濃度が妊娠女性で最も高く,次いで非妊娠女性であり,男性で最も低いことにも合致している.これらから,私どもは,子宮内膜局所におけるHBD-1およびSLPI濃度が月経周期により変化し,増殖期で最も高く,月経期で最も低くなるのではないかと推測している.
|