胎児は元来低酸素環境下にあり、かつ副交感神経優位であり、しかも分娩時に低酸素に曝される。そこで副交感神経優位は胎児にとって低酸素耐性となるという合目的的仮説を立て、7生日ラットの低酸素虚血性脳障害モデルを用いて検討した。さらに副交感神経系の活動性の指標となる心拍数細変動の変化と脳障害との関連性を検討した。 1) 副交感神経と低酸素虚血性脳障害 副交感神経刺激剤を投与した後に低酸素虚血負荷を加えると、大脳皮質、海馬の神経細胞障害を有意に減少させた(文献1)。逆に抑制剤では脳障害の重症度が増した (文献2) 。 容量反応依存性を検討すると、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の容量依存性に脳障害は軽減した。引き続いて、低酸素負荷後のマイクログリア活性化の経時的変化を検討すると、海馬では急性期に活性化され、白質と大脳皮質では24時間以降の慢性期に徐々に活性化した。大脳皮質と白質の遅延型障害に対して複数回連続投与を実施し、脳障害を抑制できることが判明した。機序としてマイクログリアとサイトカインの関与を見ると、アセチルコリン受容体刺激によりマイクログリア活性化が抑制され、その部位の脳障害が軽減し、 (文献2) そこから産生される炎症性サイトカイン(IL-1β)産生も減少した。(文献3) マイクログリア活性化も、サイトカイン産生も容量依存性であった。 2) 心拍数細変動 同ラットモデルに低酸素負荷を繰り返すと、脳障害発症個体では、低酸素中の反応期細変動も、回復期の基線細変動も減少した。特に5回目以降の低酸素刺激では、脳障害発症個体では非発症個体に比べて有意差を認め、反応期細変動の変化が明白であった。(投稿中) 以上から、副交感神経刺激は児脳障害に保護的に作用し、マイクログリアとサイトカインの関連が示された。副交感神経の活動性は心拍数細変動で評価でき、その減少が脳障害と密接に関連した。
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