研究課題/領域番号 |
24592484
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
内田 浩 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (90286534)
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研究分担者 |
丸山 哲夫 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (10209702)
升田 博隆 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80317198)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生殖医学 / 着床 |
研究概要 |
生殖補助医療における妊娠率向上の障壁として倫理的にアクセスの難しいヒト着床の不明な機序が存在する。これまでin vitro解析系を用い、子宮内膜上皮細胞層では、上皮間充織転換(EMT)と呼ばれる特殊な細胞形質転換が起こり着床機序に関与していることを明らかにしてきたが、本研究ではEMTが実際に子宮内膜上皮細胞の運動を誘発し、着床に有利に働くことをリアルタイム観察で捕捉し、新たな体外受精胚移植の治療アプローチの技術的基盤の確立を目的としている。 平成24年度は「胚陥入路形成のための子宮内膜上皮細胞層の破壊は、胚からの逃避運動亢進による迅速な生体反応」であり、その生体反応の基盤はGlycodelin発現と上皮間充織転換(EMT)に裏打ちされると仮定している。その仮説立証のためにヒト着床モデルにおける子宮内膜上皮細胞層のreal time video recordingを用いた顕微鏡動画像の観察を種々の条件下で実施した。 その結果in vitroヒト着床モデル解析系において、①胚モデル(JAR細胞spheroid)の子宮内膜上皮細胞層モデル(Ishikawa細胞飽和培養)への対峙・接着をトリガーとして(接着前の子宮内膜上皮細胞層への細胞運動能への影響は認めず)、②細胞死による子宮内膜上皮細胞の非働化と同時に、③胚接着点から遠位方向への胚回避的細胞運動による子宮内膜上皮細胞層の間隙形成がなされることが明らかになった。さらにその胚回避的細胞運動が、④卵巣ステロイドホルモン(エストラジオール+プロゲステロン)によって加速されることと、⑤in vitro着床系において子宮内膜上皮細胞の接着能・分化能・運動能を促進的に制御しうるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるSuberoylanilide hydroxamic acid (SAHA)によっても、胚回避的運動が促進されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト着床において「胚陥入路形成のための子宮内膜上皮細胞層の破壊は、胚からの逃避運動亢進による迅速な生体反応」という作業仮説に対して、その子宮内膜上皮細胞層の破壊機序が、「細胞死依存機序よりも細胞(回避)運動機序に依存している」という明確な事象であることを、in vitro 解析系ながら、real time 観察によって捕捉することに成功した。この解析結果は、本研究の作業仮説の根幹にあたる部分であるため、このコアデータの取得は、本研究に置ける重要な位置づけになる。 ただし、この子宮内膜上皮の胚回避運動の分子機序を担うと考えている上皮間充織転換(Epithelial-Mesenchymal Transition; EMT)の鍵を握る分子としてN-cadherinの発現挙動に着目しているが、N-cadherin promoterを組み込んだplasmid vectorあるいは発光タンパク質EGFPを組み込んだN-cadherinの発現plasmid vectorの作成が遅延しており、real time recording によるin vitro着床解析でのN-cadherinの挙動解析に遅延が発生している。 一方でヒト胚の着床における陥入路形成が仮説通り、細胞死よりも細胞運動に依存している可能性が高まったことで、子宮内膜上皮細胞の運動機能を制御しうると考えられるsmall GTPaseタンパク質であるRho familyタンパク質の阻害剤を用いた解析を追加実施した。まだ確定データを得られるだけの施行回数には至っていないものの、これまで細胞骨格制御を介して細胞運動全般の制御に関与しているとされているRho familyタンパク質群が、ことヒト着床においては制御機構の中で大きな位置づけを占めているとは言及しにくい可能性を見いだしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度に引き続き、in vitro着床解析系によるreal time video recordingにおいて、N-cadherinの発現プロモーターや、タンパク発現ベクターを導入した中での解析、N-cadherinの発現を抑制するsiRNA導入下での解析を施行し、動画で捉えたヒト着床における子宮内膜上皮細胞層の胚回避運動がN-cadherinの発現動態に依存し、EMTを制御基盤としているか否かの解析を行っていく。 また、最終年度(平成26年度)での子宮内膜上皮細胞-胚複合体 (Endometrial Epithelial cells- Embryo [EEE] complex)による新たな胚移植法の技術的基盤確立へ向けて、温度感受性培養皿を用いた、en blockでの細胞塊の移動(移植)方法の確立を目指す。同時にen block transferの標的を子宮内膜組織(上皮細胞+間質細胞)-胚複合体へと応用するための、子宮内膜上皮細胞および子宮内膜間質細胞モデルの多層化(三次元)培養法の技術検討を進めていく。 一方で、胚の子宮内膜への進行ルート形成として、子宮内膜上皮細胞の細胞死よりも細胞運動重点的な生理反応を平成24年度の結果から得ているが、その細胞死と細胞運動との比率を検討するために、real time video recording解析において、細胞死をreal timeに可視化するアッセイ系を構築し、細胞死と細胞運動による複合的な胚侵入間隙形成のための機序を解明していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の実験計画は概ね予定の範囲で施行されているものの、N-cadherin関連ベクター作出などの未施工分につき前年度からの繰越額が発生している。 上記の実験計画に基づき、一般的な遺伝子工学、タンパク工学、細胞培養に必要なディスポーザブル材料や試薬の他に、下記を要する。 子宮内膜上皮(および間質)と胚とのen block transferに関連する解析に関しては、子宮内膜間質細胞モデルの細胞株購入に加えて、温度感受性培養皿、培養シートなどの特殊培養ツールを入手する。 胚進入路形成における細胞死と細胞運動の関連の解析においては、real time細胞死可視化に必要な特殊試薬キットなどの購入を検討している。
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