研究課題/領域番号 |
24592489
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
石川 朋子 お茶の水女子大学, 生活環境教育研究センター, 准教授 (70212850)
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研究分担者 |
藤原 葉子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (50293105)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 小胞輸送 / 免疫 / 栄養 |
研究概要 |
胎盤は胎児への栄養供給を司る唯一の器官であると共に、IgG受渡しにより新生児の受動免疫に重要な役割を果たしている。しかしながら栄養膜細胞および絨毛血管内皮細胞からなる胎盤関門における物質輸送機構は、十分には解明されていない。胎盤絨毛血管内皮細胞において、カベオラとは異なりかつII型Fc受容体を発現する小胞にIgGが局在するという報告に着目し、この小胞とIgG輸送との関連について解析を行った。 胎盤胎児血管内皮細胞モデルとして、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を選択し、FcRIIbのC末端に緑色蛍光蛋白質EGFPを融合発現するように設計したプラスミドベクターをエレクトロポレーション法によって導入した。導入効率は決して高くないが、HUVECに発現したFcRIIb-EGFP融合タンパク質は、胎盤絨毛血管内皮細胞内に観察されるFcRIIb小胞と同様の細胞内分布を呈していた。この細胞の培養液中にAlexa Fluor 594等の蛍光色素で標識したヒトIgGを添加し、蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡により、細胞内へのIgG取込みおよび細胞内分布を解析した。するとFcRIIbを発現する細胞には顕著なIgGシグナルが認められ、両シグナルは細胞内で共局在することが確認された。またIgGの代わりにF(ab')2フラグメントを用いた対照実験により、このIgG取込みにはFcフラグメントが必須であることが示された。形態計測の結果からも、FcRIIbが細胞内へのIgG取込みに深く関与していることが示唆された。 さらに既に前所属機関(日本医科大学)において行った胎盤組織からのプロテオミクス解析で同定された小胞関連分子等に着目し、in vivo では胎盤関門に発現する小胞輸送関連蛋白質の局在解析に、in vitroではsiRNAを用いた機能解析に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎盤胎児血管内皮細胞のモデルとして、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を選択し、遺伝子導入によりFcRIIbのC末端に緑色蛍光蛋白質EGFPを過渡的に融合発現する細胞を得た。この細胞に発現するFcRIIb-EGFP融合蛋白質は、細胞内に小胞様のシグナルとして検出され、in vivoの胎盤絨毛血管内皮細胞内に観察されるFcRIIb小胞と同様に、カベオラマーカーであるカベオリンとは共局在しないことを確認した。さらに、このFcRIIb-EGFP発現細胞は、培地に添加されたヒトIgGを対照に比べて有意に取り込むこと、この取り込みはIgGのFcフラグメント依存的に行われることを実証し、FcRIIb小胞がIgGトランスサイトーシスに関与する可能性を示唆する所見を得ることができた。さらにFcRIIb小胞の関連蛋白質として、すでに胎盤組織からのプロテオミクス解析で同定されているRAS関連GTPaseファミリー等の小胞輸送・融合関連分子の胎盤組織内および細胞内での発現解析を進めている。ヒト胎盤組織の入手と解析は、連携研究者(平成24-26年度)である日本医科大学・医学研究科・教授・瀧澤俊広および日本医科大学・医学部・講師・菊池邦生の連携のもと行われている。このように、本研究の研究目的の達成度はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を基にして、FcRIIb-EGFPを過渡的に発現する胎盤胎児血管内皮細胞モデルを用い、既にプロテオミクス解析により同定された小胞輸送・融合関連分子のうち、RAS関連GTPaseファミリー等、小胞制御因子としてより有力と考えられる候補分子について、siRNAにより標的遺伝子を選択的にノックダウンすることで、FcRIIb小胞の動態への機能的な関連について解析を行う。 また上記制御因子候補の中には、昨今その胎盤関門における局在が明らかにされた小胞関連蛋白質や、他の輸送制御への関与が知られている分子も含まれており、胎盤におけるIgG輸送と他の物質輸送の相互関連が示唆されることから、他の経血管内皮細胞輸送との関連ついても検討を行う。まず上記制御因子候補および小胞関連蛋白質について、実験動物および培養細胞における局在を、免疫組織化学およびバイオイメージングにより明確にする。得られた結果をもとに、小胞輸送機構における相互作用解析に有用と考えらえる新たな実験モデルを選択し、母体栄養状態等を実験的に再現することで、経胎盤物質輸送機構との関連解明を発展的に展開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、研究代表者の研究環境の変化に伴い、一部の研究遂行上必要な解析を、前所属機関において連携研究者との共同研究として行う必要があったため、当該研究費が生じたが、「現在までの達成度」において報告したように、今年度の研究計画はおおむね予定通りに進展している。次年度以降も実施計画通りに実施する予定である。次年度は、胎盤組織より単離したFcRIIb小胞のプロテオミクス解析で同定された小胞関連蛋白質のうち、今年度の発現解析で胎盤関門での小胞輸送制御因子としてより有力と考えられた候補分子のノックダウン条件下におけるIgG取込みを蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析する。さらに経胎盤物質輸送機構解明のためのin vitro, in vivoモデル確立に向けて胎盤関門における物質輸送関連蛋白質の局在解明を行う。以上の研究計画に基づく動物実験、細胞培養、生化学的解析、機能形態学的解析とその成果報告に当該研究費を充てる計画である。
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