研究課題/領域番号 |
24592489
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
石川 朋子 お茶の水女子大学, 生活環境教育研究センター, 特任准教授 (70212850)
|
研究分担者 |
藤原 葉子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (50293105)
|
キーワード | 細胞・組織 / 小胞輸送 / 免疫 / 栄養 |
研究概要 |
胎盤は胎児への栄養供給を司る器官であると共に、IgG受渡しにより新生児の受動免疫に重要な役割を果たしている。しかしながら、栄養膜細胞および絨毛血管内皮細胞からなる胎盤関門における物質輸送機構は十分には解明されていない。先行研究では、胎盤絨毛血管内皮細胞には、カベオラとは異なりかつIIb型Fc受容体を発現する小胞が存在し、そこにIgGが局在することがわかっている。本研究はIgG輸送機構におけるIIb型Fc受容体の機能をさらに明確にすることを目的としている。 これまでに胎盤胎児血管内皮細胞モデルとして、IIb型Fc受容体のC末端に緑色蛍光蛋白質EGFPを融合発現させたヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を作製し解析を行ってきた。HUVECに発現させたIIb型Fc受容体は、胎盤絨毛血管内皮細胞と同様の細胞内分布を呈し、培地に添加したヒトIgGの細胞内取り込みを増強し、両シグナルは細胞内で共局在すること、F(ab')2フラグメントを用いた対照実験により、このIgG取込みにはFcフラグメントが必須であることを明らかにした。また既に前所属機関の日本医科大学において行った胎盤組織からのプロテオミクス解析で予測された小胞関連分子についてsiRNAを用いた機能解析等を行い、IgG輸送能に関連する因子を明らかにするとともに、本来IIb型Fc受容体を発現しないHUVECにおいてもIIb型Fc受容体の物質輸送機構解析が可能であることを示した。これらの研究成果は現在論文投稿中である。さらに近年にはIIb型Fc受容体が齧歯類の成獣肝類洞内皮細胞等に発現するとの報告もあることから、胎盤のみならず胎仔および新生仔組織でのIIb型Fc受容体および輸送関連因子の発現解析を進め、IgG輸送におけるIIb型Fc受容体の機能解析に有用なin vivo実験系の確立をめざしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎盤胎児血管内皮細胞のモデルとして、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を選択し、遺伝子導入によりIIb型Fc受容体のC末端に緑色蛍光蛋白質EGFPを過渡的に融合発現する細胞を得た。この細胞に発現するFcRIIb-EGFP融合蛋白質のシグナルは細胞内で顆粒状を呈すること、カベオラマーカーであるカベオリンとは共局在しないことなど、in vivoの胎盤絨毛血管内皮細胞内に観察されるFcRIIb陽性の小胞を再現することができた。次いでFcRIIb-EGFP発現細胞は、培地に添加されたヒトIgGを対照に比べて有意に取り込むこと、この取り込みはIgGのFcフラグメント依存的であることを実証し、FcRIIb小胞がIgGトランスサイトーシスに関与する可能性が示唆された。さらにFcRIIb小胞の関連蛋白質として、すでに胎盤組織からのプロテオミクス解析で予測された小胞輸送制御因子候補の解析により、IgG取込みに関わるRAS関連GTPaseを見出した。ヒト胎盤組織内および細胞内での発現解析を含め、現在論文投稿中である。ヒト胎盤組織の入手と解析は、連携研究者(平成24-26年度)である日本医科大学医学研究科の瀧澤俊広教授の連携のもと行った。 さらにヒトでは解析不可能な、母体の栄養状態等の環境要因がIIb型Fc受容体のIgG輸送能に与える影響を明らかにするため、in vivo実験系の確立をめざして、実験動物における発現局在の解析を進めている。これまでに実験動物の成獣肝類洞内皮細胞および胎仔肝組織における発現を確認するなどの成果を得ている。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでのヒト胎盤組織およびHUVECを用いたin vitro解析による成果に基づき、ヒト胎盤胎児血管内皮細胞に発現するIIb型Fc受容体のIgG輸送能とその制御機構、環境要因との関連について、より発展的な展開をめざしてin vivo実験系の確立を計画している。近年の実験動物を対象とした研究では、IIb型Fc受容体はマウス卵黄嚢胎盤においては母体-胎仔間のIgG受渡しに関与しないとの報告がある。一方で、マウス新生仔の受動免疫に関わる胎児型Fc受容体は、腸管上皮細胞内に局在し、細胞内のIgGを保護的に捕捉することがわかっていたが、近年このFc受容体がIgGの取り込みに直接的に関与する可能性も示唆されており、母体由来のIgG受渡し機構には不明な点が多い。今後の研究の推進方策として、まず実験動物におけるIIb型Fc受容体およびIgG輸送機構制御因子の発現局在を明らかにすることで、母体-胎仔間、母体-新生仔間のIgG輸送機構の解明に有用な実験系を選択する。さらに、母体栄養状態等の環境要因が経胎盤物質輸送機構に与える影響の検討など、IIb型Fc受容体の機能解明の発展的展開をめざしていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者の研究環境の変化に伴い、一部の研究実施上必要な解析と論文作成について、前所属機関の連携研究者との共同研究として遂行する必要があったため、当該研究費が生じたが、「現在までの達成度」において報告したように、これまでの研究計画はおおむね予定通りに進展している。 初年度に提出した研究実施計画に基づき、平成26年度は、これまでに明らかとなったヒト胎盤胎児血管内皮細胞に発現するIIb型Fc受容体のIgG輸送能とその制御因子の機能解明について、in vivo実験系の確立を計画している。これまでに実験動物成獣肝類洞内皮細胞の他、胎仔肝臓、小腸および胎盤組織にIIb型Fc受容体の発現を認めている。はじめにこれらの組織におけるIIb型Fc受容体の発現強度および局在を明らかにするため、生化学的および形態学的解析を行う。さらにこれまでに明らかとなったヒト胎盤胎児血管内皮細胞におけるIgG輸送機構の制御因子についても同様の解析を行い、ヒト胎盤組織におけるIgG輸送機構解明のモデルとしての有用性を検討する。さらに栄養状態等の母体環境因子がIgG受け渡しに及ぼす影響を、in vivoモデルを用いて検討する計画である。
|