胎盤は母親から胎児への栄養供給を司ると共に、母親の抗体を胎児へ受け渡す器官として、受動免疫に重要な役割を果たしている。しかしながら、栄養膜細胞および絨毛血管内皮細胞からなる胎盤関門におけるIgG輸送機構は十分には解明されていない。IgG受容体の一種であるIIb型Fc受容体は主に白血球膜表面に発現するが、胎盤内皮細胞では、IgGを含む細胞内小胞にも発現している。本研究では、IIb型Fc受容体小胞が内皮細胞を介したIgG輸送に関与することを明らかとし、小胞形成に関わる因子を見い出した。さらに研究代表者の研究環境の変化に伴って、当初の計画を一部変更し、内皮細胞ににおけるIIb型Fc受容体の機能解析に有用なin vivo実験モデルの確立を行った。 胎盤胎児血管内皮細胞のin vitroモデルとして、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に遺伝子導入によってIIb型Fc受容体-EGFP融合タンパク質を発現させた細胞を用いた。IIb型Fc受容体シグナルは、胎盤組織と同様に細胞内で小胞様の分布を呈し、細胞外から取り込まれたIgGと共局在すること、IIb型Fc受容体発現細胞では、IgGの細胞内取込と経細胞輸送が促進されることを実証した。また胎盤組織のプロテオミクス解析で同定された小胞関連分子の中から、Ras関連GTPaseに着目して遺伝子ノックダウンを行い、IIb型Fc受容体発現小胞の動態とIgG取込み能との関連を検証し、制御因子のひとつとしてRab3Dの関与を見い出した。さらに内皮細胞に発現するIIb型Fc受容体の機能解析に有用なin vivo実験モデル確立のため、胎盤のみならず胎仔、新生仔、成獣組織でのIIb型Fc受容体および関連分子の解析を行い、食事性肝疾患発症に伴う肝類洞内皮細胞のIIb型Fc受容体発現変動を明らかにした。
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