研究課題
本研究は、次世代シーケンサーで取得した大規模配列解析情報やマイクロアレイ技術で取得したゲノムワイドな一塩基多型(SNP)情報を駆使し、産科領域の難治性疾患や稀少疾患の関連遺伝子を解明する事を目的とする。平成25年度は、遺伝子解析に同意した反復胞状奇胎や、流早産を繰り返し生児を得られなかった不育症の数症例の母体末梢血液gDNAを材料として、次世代シーケンサ―で取得した配列情報の解析を進めた。反復胞状奇胎数症例のうち、海外で報告されているNLRP7遺伝子変異が存在する症例が1例あった。反復流早産の1症例では、PTGER3(プロスタグランジンレセプターのひとつ)遺伝子にアミノ酸の変化を伴う一塩基多型が存在し、反復する流早産の候補遺伝子のひとつと考えられた。また、難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業と連携し、合併症を伴わない正期産のデータのゲノムワイドなSNP情報を取得し、妊娠維持・胎児発育に適したコントロール症例(リファレンス)のcopy number variant(CNV)データベースを構築した。産科領域の難治性疾患や稀少疾患の関連遺伝子の絞り込みにそれらのリファレンスデータの活用を開始した。最終年度は、反復流早産で抽出されたPTGER3のSNPに注目し、核酸の質量分析装置を利用したバリデーション研究やPTGER3の組織染色等を行い、疾患症例に特異的なSNPであるか、検証する。本邦で初めて見つかったNLRP7遺伝子変異による反復胞状奇胎症例については、論文化を進める。海外の報告から、NLRP7遺伝子の変異と反復胞状奇胎の関連が示唆されているが、NLRP7遺伝子の機能は不明である。ゲノム編集を利用してヒトNLRP7遺伝子破壊細胞を作成し、NLRP7遺伝子の胎児発育における役割を解析する。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、母体の遺伝的要因の関与が推測され、生児を得ることが困難な症例、胎児の発育異常を繰り返す症例など、現状での治療では生児を得ることができない不育症のエクソ―ム解析に加えて、難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業と連携し、平成25年度以降で計画したコントロールの症例(合併症のない正期産)のリファレンスデータの収集を進めた。1. 不育症のエクソ―ム解析平成24年度に取得した塩基配列情報を、所属機関内のバイオインフォマティクス専門家とともに解析を行い、疾患関連遺伝子候補の絞り込みを行った。海外で反復胞状奇胎と関連がある遺伝子として報告されているNLRP7遺伝子の変異を持つ症例が、本研究で解析した日本人の症例に見つかった。その症例の胞状奇胎組織では、p57の発現がない、DNAメチル化異常などの異常が観察された。反復流早産症例では、取得した配列情報から、候補遺伝子の絞り込みを行った。PTGER3(プロスタグランジンレセプターのひとつ)遺伝子にアミノ酸の変化を伴う一塩基多型が存在し、反復する流早産の候補遺伝子と考えられた。2. コントロール症例のcopy number variant(CNV)データベースの構築合併症のない正期産411例について、illumina社のBeadChip (Human Onmi2.5-8) を用い、ゲノムワイドなSNP情報を収集した。収集した多型情報に基づき、コピー数異常(欠失、copy neutral loss of heterozygosity、重複)について解析を行い、コントロール症例のcopy number variant(CNV)データベースを構築した。
平成25年度までに行ったエクソ―ム解析と疾患候補遺伝子の絞り込みの過程で、本研究で解析に供した症例は、1)いずれも稀少且つ孤発例であるため疾患対象者が少ない、2)症例対象の本人のみの塩基配列情報が解析材料であるため、疾患を発症していない同胞や父母など絞り込みに有用な情報が欠如している、という問題点が明らかになってきた。そのため、1症例あたり100-200に絞り込まれた候補遺伝子が本当に疾患に関連するのか、更なる評価が必要である。疾患症例に特異的に生じる遺伝子の変異であるかの判断に、合併症を伴わない数百以上の正期産例のゲノムワイドなSNP情報は、疾患候補遺伝子の多型の頻度を知る上で有効である。バリデーション研究には、1)検体ごとに個々の候補遺伝子のSNPをdirect sequencing、2)multiplex PCRに基づいた核酸の質量分析装置を用いたMASS ARRAYが考えられる。コントロールを含めた数百検体のdirect sequencingは多大な費用・労力を要する。一方で、MASS ARRAYは大量の検体且つ大量の候補遺伝子の多型解析を得意とし、疾患特異的な遺伝子多型であるかの評価に有用な手法である。最終の平成26年度では、主にMASS ARRAYによるバリデーション研究を進め、産科領域の難治性疾患や稀少疾患の関連遺伝子の更なる抽出に利用する。またゲノム編集を利用したヒト疾患モデル細胞の作成と、そのモデル細胞での疾患関連候補遺伝子の機能解析を試み、産科領域の難治性疾患や稀少疾患の関連遺伝子を同定する。
平成25年度に購入を予定していたSNPアレイ(Bead chip)や次世代シークエンス用試薬は、他の研究費により購入できたため、次年度使用額が生じた。平成26年度の研究経費の主要な用途は、消耗品である。平成26年度に計画しているMASS ARRAYによるバリデーション研究に必要な試薬、direct sequencingに必要なプライマーや酵素、ゲノム編集を利用したヒト疾患モデル細胞の作成および疾患候補遺伝子の機能解析に必要な試薬類の購入に充てる。また研究打ち合わせ、情報交換や研究成果の公表のための学会参加に必要な出張経費、および論文発表の際に必要な諸経費、研究協力者に係る人件費や謝金、データ解析など専門知識の提供に対する謝金を計上する。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)
J. Hum. Genet.
巻: 59 ページ: 326-331
10.1038/jhg.2014.27
http://www.ncchd.go.jp/research/nch/ntec/index.html
http://ntec.heteml.jp/nch/