エピジェネティクスな遺伝子制御は多彩な生命現象の分子基盤を担っており、細胞の分化・脱分化、増殖、老化等の細胞の質的変化に加え、環境因子への応答とその記憶としての役割にも深く関わっている。低出生体重児では学童期の学習障害や行動障害の頻度が高いことが従来から指摘されているが、胎児期の栄養環境とその後の精神発達遅滞・障害の関連については不明な点が多い。最近、胎児期低栄養環境後のコホート研究結果から、高齢時の認知力低下がより早く進む可能性が示唆された。本研究は胎児期の低栄養環境と精神発達遅延・障害の関連、及びその機序を明らかにし、予防法や治療法の確立につなげることを目的とする。 本年度は、これまでに確立した子宮内発育遅延(IUGR)モデルマウスを用いて、精神発達への影響、それらを修飾する生活環境、性差についてOpen-field testやNovel object recognition test(新奇物体認識試験)等による行動学習評価及び分子生物学的手法を用いて解析を行った。IUGRはコントロール群と比較して、運動協調発達の遅延、不安行動の増加、即時記憶または空間学習における記憶障害を示す結果が得られた。これらの障害は離乳後に群飼育に比べ個別飼育によって増悪傾向が認めら、またこの影響に性差がみられた。これまでの検討から、シナプス後膜の構成蛋白の発現低下が認められ、何らかのシナプス障害の可能性が示唆された。
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