研究概要 |
我々はこれまでに、子宮体癌における癌抑制蛋白PTENおよびp53の発現量が、予後と有意に相関することを報告してきた。今回我々は、将来的な個別化(オーダーメード)治療のための基礎データを取得することを目的として、同疾患におけるPTEN遺伝子変異を解析し、その臨床的意義を検討した。まず子宮体癌221症例において、腫瘍組織でのPTEN、PIK3CA、phospho-Akt、p27の発現レベルを免疫染色により評価し、臨床病理学的因子および予後との相関性を統計学的に解析した。さらに腫瘍組織からDNAを抽出し、PTEN遺伝子変異を解析した。221例中56例(25%)にPTEN発現の欠失、159例(72%)にPIK3CA高発現、189例(86%)にphospho-Akt高発現を認めた。PIK3CA高発現は、下流に存在するphospho-Aktの高発現と相関し (p<0.00001)、更にphospho-Akt高発現はp27核内発現の欠失と相関した(p=0.03)。臨床病理学的因子との関連性の検討により、PTEN発現の欠失は組織型類内膜腺癌および脈管侵襲の無いことと相関した(ともにp=0.03)。また全生存期間に関する単変量および多変量解析から、PTEN発現の欠失、年齢75歳未満、G1、FIGO進行期I/II期、脈管侵襲なし、の5因子が独立した予後良好因子として抽出された(それぞれp=0.03, 0.04, 0.01, <0.001, 0.03)。進行期別の解析ではPTEN発現の欠失は早期癌よりも進行癌でより強い予後良好への傾向を認めた。さらにPTEN蛋白発現の欠失はPTEN蛋白をtruncateする遺伝子変異と相関した(p=0.03)。以上より、PTEN遺伝子異常を有する子宮体癌は、他の遺伝子異常をoriginとする腫瘍に比して、より緩徐な生物学的特性から予後良好である可能性が示唆された。
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