研究実績の概要 |
子宮体癌個別化(オーダーメード)治療のための基礎データを取得することを目的として、子宮体癌におけるPTENおよびp53遺伝子変異を解析し、その臨床的意義を検討した。まず子宮体癌221症例において、腫瘍組織でのPTEN, PIK3CA, phsopho-Akt, p27, p53の発現レベルを免疫染色により評価し、臨床病理学的因子および予後との相関性を統計学的に解析した。さらに、腫瘍組織からDNAを抽出し、PTENおよびp53遺伝子変異を解析した。PIK3CAの高発現は下流のphospho-Aktの高発現と相関し、さらにphospho-Aktの高発現は下流のp27の核内発現の欠失と相関し、これらは一連のPI3K-Akt-p27シグナル伝達機序と理論的に一致する結果であった。PTEN発現の欠失は組織型類内膜腺癌および脈管侵襲の無いことと相関し、一方p53発現陽性は組織型非類内膜腺癌および進行癌(Ⅲ・Ⅳ期)と相関した。次に、全生存期間に関する単変量および多変量解析により、PTEN発現の欠失は予後良好因子であり、逆にp53発現陽性は予後不良因子であった。PTENおよびp53発現によりグループ化して予後を比較すると、PTEN陰性p53陰性の群が最も予後良好であり、PTEN陽性p53陽性の群が最も予後不良であった。さらに、術後放射線治療は、p53陰性の患者で予後を改善したが、p53陽性の患者では不変であり、術後化学療法はp53の発現に拘わらず予後は不変であった。また、p53陰性の患者では、術後放射線治療の追加は独立した予後良好因子であった。最後に遺伝子変異解析から、PTEN陰性はPTEN蛋白をtruncateする遺伝子変異と相関し、またp53陽性はp53遺伝子変異と相関した。PTEN遺伝子変異とp53遺伝子変異は互いに共存しない傾向にあった。以上の結果から、子宮体癌においてPTEN遺伝子異常はより緩徐な生物学的特性をもたらし、逆にp53遺伝子異常はより急速な進行と放射線低感受性をもたらすことにより、それぞれ独立して子宮体癌の予後に影響していることが示唆された。
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