研究課題/領域番号 |
24592506
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長阪 一憲 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30624233)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
ハイリスクのHPV特有の発癌モデルを解明する目的で、前癌状態である子宮頸部上皮異形成から癌化に寄与するメカニズムについて分子細胞生物学的な検討を行った。本年度は主に培養細胞を使用した検討を行った。正常ヒトケラチノサイト(HaCaT 細胞)を使用して、RNAi法で細胞極性決定因子の一つであるScribbleをknock downさせ、ERKの活性化をWestern blot法、蛍光免疫染色法で検討した。HPV16型陽性CaSki細胞、HPV18型陽性HeLa細胞を用いて、RNAi法でE6癌蛋白をノックダウン後、Cell fractionationを行った。ウエスタンブロット法、蛍光免疫染色により、hScrib-PP1複合体の発現、細胞内局在の変化、ERK系路依存的増殖能獲得について調べた。またHPV陰性HaCaT細胞およびC33a細胞、293細胞に16型E6あるいは 18型E6 DNAを遺伝子導入し、hScrib-PP1複合体への影響を検討した。また、HPV16型および18型陽性子宮頸癌組織に対して免疫組織染色を施行し、hScrib-PP1複合体の異常発現と病理組織像との関連について調べた。培養細胞および子宮頸癌組織の検討から、HPV16陽性子宮頸癌では、E6癌蛋白とhScribが結合する事により、細胞質にhScrib-PP1複合体が過剰発現をする事がわかった。しかし、18型陽性子宮頸癌腺癌ではE6癌蛋白とhScrib-PP1複合体に一定の相関関係は認められなかった。また、病理学的検討ではhScrib-PP1複合体の細胞質内過剰発現と扁平上皮癌、未分化癌では有意な相関関係が認められた。 Scribbleが細胞内で正常発現ができなくなると、PP1やERK経路のシグナル異常を引き起こし、子宮頸部で癌化を来すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ScribbleなどのPDZ蛋白は早期癌の悪性化予知マーカーになりうる可能性があるとともに、PDZ binding motif (PBM)は配列特異性が高いため、例えばE6癌蛋白に結合をすることができないような、配列特異的な阻害剤を作成することが可能と考える。また、hScrib-PP1複合体はHPV16型陽性子宮頸部扁平上皮癌では細胞質に異常発現することで、ERK系路依存的な増殖能の獲得をしている。しかし、18型陽性子宮頸部腺癌ではhScrib-PP1複合体は異なる役割をしている可能性が示唆され、腺癌の発癌過程には別の機構が存在している事がわかった。
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今後の研究の推進方策 |
(新規分子標的薬の開発)現在、子宮頸部細胞診では、パパニコロー染色による細胞形態学的な異常を検出し、診断が施される。しかし、子宮頸部上皮異形成の場合、特に中等度、高度異形成と上皮内癌の鑑別にしばしば苦慮する場合があり、また癌化リスクを評価する診断は未だ難しいため、過剰な治療が行われていることが多い。そこで、今回の基礎的検討をさらに解析し、細胞診で癌化リスクを評価できるバイオマーカーの同定を試みるべく、研究は進行中である。また、子宮頸癌の発癌メカニズムの解析に基づき、現在は卵巣癌の研究を進行中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では次世代シークエンサーを用いた網羅的解析を行う。子宮頸部の正常部分、癌部分のRNAを抽出し、CAGE法にて遺伝子プロファイリングを行う。まず、前癌細胞(子宮頸部異形成細胞など)と、癌細胞とを比較した遺伝子発現プロファイルを可視化することが必要である。そこで網羅的なトランスクリプトーム解析を行う。トランスクリプトーム解析は、抽出したRNAを用いたCAGE法を利用する。培養細胞および、臨床サンプルに対する解析から得られた遺伝子発現量に関する、膨大なデータのマッピングをまず行い、その注釈付けについては、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)などのソースを利用したパスウェイ解析、クラスタリングなどにより分子ネットワークの解明を行う。特に、子宮頸癌に対しては、PDZドメイン蛋白だけでなく、HPV E6/E7癌蛋白が標的とするp53, RB蛋白を含めた、これら3つの経路に関連する遺伝子発現の比較に焦点を当てて、それらの転写開始点の変化、transcription patternの変化などを明らかにする。こうして収集した遺伝子発現の情報から、未知のinducing factor、その依存シグナル系路を同定し、分子細胞学的な基礎実験、更には臨床情報を統合することによって、新規発癌バイオマーカーおよび、創薬のターゲットの同定をしていく。
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